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服用タイミングと飲み合わせによる漢方薬の有効性の違い

No.4757 (2015年06月27日発行) P.65

濱口卓也 (慶應義塾大学環境情報学部/ 医学部漢方医学センター)

渡辺賢治 (慶應義塾大学環境情報学部教授/ 医学部漢方医学センター教授)

登録日: 2015-06-27

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

食前・食後に服用した場合の漢方薬の吸収の違いについてご教示下さい。また牛乳との飲み合わせは不適と読んだ覚えがありますが,本当でしょうか。もしそうであるならば,その理由についてご教示下さい。 (大阪府 C)

【A】

漢方薬の添付文書の多くには「食前または食間に内服」という指示があります。漢方薬は消化酵素,腸内細菌によって代謝され,吸収されやすい形に変えられ効果を現しますが,漢方薬の吸収が影響を受けるのは,主に胃内のpHと腸内細菌叢とによります。
漢方薬に含まれる成分の1つであるアルカロイドは,そのままの形態で吸収されるため,効果発現が速いとされています。しかし,塩基性成分が多く,胃内のpHが低い状態ではイオン化するため,吸収が悪くなります。アルカロイドである麻黄のエフェドリンや附子のアコニチンは,急激な吸収では副作用や中毒を生じますが,食前や食間の胃内pHの低い状態では穏やかに吸収されるため安全性が高まります(文献1)。
一方,漢方薬の成分の1つである配糖体の吸収には様々な経路が指摘されています。消化酵素であるアミラーゼやラクターゼにより加水分解されて非糖部が吸収される経路や,グルコーストランスポーターによりそのままの形態で吸収される経路,そして腸内細菌により代謝されて吸収される経路などがあります(文献2)。
腸内細菌により代謝されて吸収される経路では,腸内細菌の多い大腸まで進み,糖を切り離す酵素を持つ菌によってその糖が切り離され,脂溶性が高まることで吸収されます。この場合は,食前または食間に飲むほうが速やかに大腸に到達し,代謝を受けて吸収されると考えられます。代表的な配糖体成分は甘草に含まれるグリチルリチンです。
このように漢方薬の食前または食間の内服指示に関しては,一部の成分については妥当と考えられますが,漢方薬が多成分から構成されることを考えると,コンプライアンス重視で忘れずに服薬できる時間帯を選ぶほうが優先度は高いでしょう。食前服薬で胃腸障害をきたす場合には食後服薬にして,胃腸障害が改善されるかどうかみて下さい。
一般的な漢方薬の服薬方法として,エキス製剤の場合でも熱湯で溶かし,少し冷まして服薬することを勧めています。牛乳で飲んだ場合の相互作用としては,牛乳の成分が西洋薬の吸収に影響を及ぼすケースがいくつか知られています。たとえば,カルシウムイオンがキレート結合することでニューキノロン系抗菌薬やテトラサイクリン系抗菌薬の吸収を阻害すること,キサンチンオキシダーゼによりメルカプトプリンの代謝が亢進し治療効果が減弱すること,牛乳または高脂肪食によりエトレチナートの血中濃度が上昇すること,などです。漢方薬には多数の成分が含まれ,いまだ薬効成分のわかっていないものも多く,牛乳との相互作用の可能性については今後の研究が望まれます。

【文献】


1) 田代眞一:産婦治療. 2010;100(6):999-1004.
2) 牧野利明:いまさら聞けない生薬・漢方薬. 医薬経済社, 2015, p65-70.

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