【Q】
高コレステロール血症のためスタチン内服中の患者で,クレアチンキナーゼ(CK)が軽度高値(男性:300 IU/L前後,女性250~300 IU/L前後)の無症候例をみることがあります。CKの上昇の原因として,運動と薬剤以外の要素が考えにくい場合,このような患者に対して継続投与をしてもよいのでしょうか。継続投与した場合の問題点があれば,ご教示下さい。 (神奈川県 O)
【A】
スタチン投与患者でCKの上昇を見ることは,稀ではありません。以下では,最近,欧州心臓病学会誌に掲載された,スタチン関連筋症状に関するレビュー(文献1)を参考にお答えしたいと思います。
まず,スタチン関連の筋痛は両側対称性に生じ, 下肢近位筋で多く,スタチン開始後6カ月以内で生じる例が多いのが特徴です(文献2)。発生頻度は,何らかの筋症状は約10%,筋肉痛は約7%, 重度の筋障害は約0.1%で認められ,全スタチン使用患者の5~10%がスタチン不耐となると報告されています(文献3)。
(1)筋症状の種類
筋症状の中で,CKの上昇がなく筋症状を訴えるものを筋肉痛(myalgia)と呼びます。CKとの因果関係がはっきりしないものを指します。スタチン投与前のCK値を測定しておくとCKレベルの判断に役立つと思われます。CK>2000 IU/L
(10×ULN:正常最大値の10倍)は筋障害(myopathy)と呼ばれ,下肢近位筋の圧痛と筋力低下を認め,発生頻度は0.1%程度です。
スタチンによる横紋筋融解症はきわめて稀な副作用ですが,フィブラート系薬剤との併用では,発生頻度は高くなると言われています。
(2)CKの上昇レベルによる対応法
CKが800 IU/L未満(>ULN,<4×ULN)の場合は,運動によるCK上昇の可能性とスタチン関連CK上昇の可能性があります。
スタチン内服患者に関しては,運動によるCK上昇の可能性について問診し,スタチン関連CK上昇の可能性について考慮します。基本的にこのレベルのCK上昇では,継続投与は容認されますが,脂質異常症,糖尿病,喫煙やメタボリックシンドロームの有無から心血管リスクを勘案し,低リスクの場合には,スタチンをいったん中止し,まず生活習慣の改善をめざすことを優先します。スタチンの再開についてはその後の経過で判断します。
一方,ハイリスク症例では,基本的にスタチン投与の継続は可能とされています。スタチンがCK上昇の原因と考えられる場合には,ほかのスタチンへの変更や,同じスタチンでも投与量を少量から再度開始するという試みが可能です。それでもなお筋症状がある場合は中止が考慮されます。また,スタチン以外の脂質低下療法の併用や変更も考慮されます。
筋症状がない場合には,甲状腺機能異常や運動によるものを考慮しCKとともに再検することが望ましいと思われます。
CKが800 IU/L以上(≧4×ULN,<10×ULN)でスタチンによる筋症状がある場合には,直ちに服用中のスタチンを中止し,CKを経時的に再評価していきます。スタチン投与の継続が必要と考えられる場合には,ほかのスタチンへの変更や,同じスタチンでも投与量を少量から再度開始することは可能で,その際にはCKのモニタリングをしながら投与し,CKが2000 IU/Lを超える(>10×ULN)ようなら,一時中止するなどの対応を行います。
スタチン投与を中止してもなおCK高値の場合,神経内科などの専門医の診察が必要です。
CKが2000 IU/L以上(≧10×ULN,<40×UL
N)では,強度の運動や打撲傷など二次的な場合を除き,スタチンは直ちに投与中止します。この場合もスタチン投与が必要な患者であれば,CKが改善した後,ほかのスタチンへの変更や,同じスタチンでも投与量を少量から再度開始することが可能で,その際にはCKのモニタリングをしながら投与することになります。CKが2000 IU/Lを超える(>10×ULN)ようになるなら,一時中止するなどの対応を行います。
CKが8000 IU/L以上(≧40×ULN)の場合は,スタチンの影響が考えられる場合には,スタチンを中止するのみならず,腎障害をCr値やミオグロビン値およびミオグロビン尿で評価することが必要です。また,腎障害に応じて,補液と尿のアルカリ化の処置を行います。もし,脂質低下療法が必要と判断されればスタチン以外の薬剤を選択します。
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CK上昇患者に対するスタチンの使用の継続に関する一般的な対応について述べました。詳しくは参考文献をご参照下さい。
横紋筋融解症が疑われる場合には,迅速な処置が必要となります。特に急性腎不全となることも多く,腎臓専門医の治療が必要な場合もあることを認識しておくことが重要です。
1) Stroes ES, et al: Eur Heart J. 2015;36(17):1012-22.
2) Mohassel P, et al:Curr Opin Rheumatol. 2013;25(6):747-52.
3) Ahmad Z: Am J Cardiol. 2014;113(10):1765-71.