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低血糖発作の治療法

No.4766 (2015年08月29日発行) P.61

武者稚枝子 (稚枝子おおつきクリニック院長/ 東京女子医科大学産婦人科非常勤講師)

登録日: 2015-08-29

最終更新日: 2016-12-13

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【Q】

胃切除術を受けていないが後期ダンピング症候群(機能性低血糖)を呈する64歳の女性。10年前よりときどき低血糖発作を起こし,ブドウ糖を口腔より投与しています。75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の結果は,負荷前:93mg/dL,30分後:184mg/dL,1時間後:115mg/dL,2時間後:101mg/dL,3時間後:121mg/dL,4時間後:66mg/dLで気分不快(安静にて症状消失),5時間後:78mg/dL,6時間後:84mg/dL。
現在,自己血糖測定器で65mg/dL以下のときにブドウ糖服用を指示していますが,最近は月に2~3回発作があります。10年来,徐々にHbA1c
(NGSP値)が上昇傾向で,現在6.4%。肝・膵CTなどの所見で異常はありません。今後の治療についてご教示下さい。 (埼玉県 I)

【A】

低血糖症は,一般に「血糖値が正常範囲を超えて低下した場合や血糖値が急速に低下した場合などに自律神経系および中枢神経系の機能異常をきたした状態」を言います(文献1)。症状は(1)血糖値が正常範囲を超えて低下した結果として生じる,発汗,不安,動悸,頻脈,手指の振戦や顔面蒼白などの「交感神経症状」と,(2)血糖値が50mg/dL程度に低下したことによる,頭痛,視力障害,複視,空腹感,引き込まれるような異常な眠気や生あくび,重症でみられる意識レベルの低下や異常行動,痙攣,昏睡状態などの「中枢神経症状」に大きく二分されます。
低血糖症の原因分類を表1 (文献2)に示します。通常,(1)のように糖尿病の治療中に起こるものや,(4)の胃切除後の反応性低血糖症(ダンピング症候群)がよく知られていますが,ご質問の症例をはじめ,実際には(5)の機能性(反応性)低血糖症によるものが非常に多く存在します。
機能性低血糖症は糖分の過剰摂取による膵臓機能の破綻,アルコールの多飲,脂質の過剰摂取,不規則な食事,ビタミン・ミネラルの摂取不足,ストレスなどが原因とされており,ほとんどの現代日本人がそのリスクを持つと思われます。
表2 (文献3)に,Newboldによる機能性低血糖症の診断基準を提示します。検査は12時間以上絶食した後,5~6時間の75gOGTTを行います。
図1に正常の血糖曲線と症例の血糖曲線の比較を示します。図の症例は血糖値の値のみですが,少なくとも負荷後4時間目の値が66mg/dLと負荷前より20%以上低下しており,さらには負荷後3時間目と4時間目の値の差が55mg/dLと50
mg/dL以上も急降下し,気分の不快症状もみられるため,機能性低血糖症と診断して間違いありません。
また機能性低血糖症には,血糖曲線での山が2つ以上ある「乱高下型」と,血糖値の変動に遅れてインスリンの分泌が起こる「反応性型」,糖負荷検査中,ほとんど血糖値が上がらない「無反応性型」の3パターンが知られており,特に無反応性型は引きこもりや不登校児に多いとも言われています。
治療は「低血糖症」という病名から,つい「糖が足りないのだから糖質を摂取するように」と指導してしまいがちですが,これでは症状を繰り返してしまいます。低血糖も高血糖(2型糖尿病)も同じ「血糖調節異常」であり,機能性低血糖症の延長上に糖尿病があると考えると理解しやすいと思います。もちろん,意識消失発作時の糖の投与は必要ですが,その後の治療では,できるだけ糖質制限を行います。特に精製された糖は,急激に血糖値を上昇させ膵臓に負担がかかるため避けます。意識して蛋白質・ビタミン・ミネラルの摂取量を増やすよう指導します。
どうしても糖質を摂取する場合は,GI(グリセミック指数:glycemic index)値の低い食品を選んだり,食事の順番を「食物繊維(野菜・海藻など)→蛋白質→炭水化物・糖質」など,急激に糖が上昇しないように工夫するとよいでしょう。また,欠食をしないこと,間食として血糖値が上がりにくいナッツ類や無糖のヨーグルトなどを摂取することなども大切です。ただし,間食は空腹感を感じてからの摂取では遅すぎます。このとき既にアドレナリンなどカテコラミンは分泌されてしまっているからです。できれば5~6時間のOGTT(自費になります)で自分のパターンを知り,血糖値が下がる40~50分前に補食するとよいでしょう。
検査ができない場合は,症状が食後何時間後に起こるかをチェックして,その40~50分前に補食するとよいでしょう。また2010年より持続血糖測定(continuous glucose monitoring:CGM)が保険適用されており,検査として有効です。ご質問の症例の場合は糖質制限と食後3時間の補食をお勧めします。

【文献】


1) 矢澤幸生:今日の治療指針2009年版. 山口 徹, 他, 編. 医学書院, 2009, p543-4.
2) 柏崎良子:低血糖症と精神疾患治療の手引. 第3版. いのちのことば社, 2007, p119-37.
3) Newbold HL:Dr. Newbold’s Nutrition For Your Nerves. Keats Pub, 1993, p107.

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