【Q】
心房細動および陳旧性心筋梗塞での抗血小板薬使用について。非弁膜症性心房細動では,CHADS2スコアが2点以上の場合は抗凝固薬として優先順位が高い新規経口抗凝固薬(novel oral anti coagulants:NOACs)およびワルファリンが用いられ,また,陳旧性心筋梗塞では抗血小板薬として低用量アスピリンの永続投与が勧められていますが,以下についてご教示下さい。
(1) 陳旧性心筋梗塞で,ワルファリンではなく低用量アスピリンが勧められる理由。
(2) 非弁膜症性心房細動および陳旧性心筋梗塞の合併では,ワルファリンと低用量アスピリンの両薬剤使用に利点があるのか。 (茨城県 O)
【A】
(1)陳旧性心筋梗塞で低用量アスピリンが勧められる理由
日本循環器学会の『心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版)』では,「禁忌がない場合のアスピリン(81~162mg)の永続投与」がエビデンスレベルAのクラスⅠで推奨されています(文献1)。根拠は,欧米におけるランダム化比較試験をはじめとする質の高い研究のメタ解析で,主要冠動脈イベントがアスピリン投与により低下することが示され,またわが国においても複数の試験で低用量アスピリンの心筋梗塞二次予防における有用性が明らかにされたからです。
一方,ワルファリンに関して,同ガイドラインは「左室,左房内血栓を有する心筋梗塞,重症心不全,左室瘤,発作性および慢性心房細動,肺動脈血栓塞栓症を合併する症例,人工弁の症例に対するワルファリンの併用」をエビデンスレベルAのクラスⅠで推奨しています。また,エビデンスレベルBのクラスⅡbで「アスピリン投与が禁忌あるいは困難である症例におけるPT-INR 2.0~3.0でのワルファリン投与」と記されています。ワルファリンとアスピリンの単独投与対比でワルファリンの有効性を示す論文もありますが,ワルファリンの用量が日本では受け入れがたいほど高い設定(PT-INR 2.8~4.2)であったこと,日本で比較試験が行われていないこと,ワルファリンのほうが出血性合併症が多いことから,ワルファリンの投与は,心臓や静脈内血栓形成が危惧される状態でのアスピリンとの併用か,アスピリンが禁忌の場合に考慮するにとどまっています。
(2)非弁膜症性心房細動・陳旧性心筋梗塞合併症へのワルファリン・低用量アスピリン併用
上記のガイドラインの記述から理解できるように,ワルファリン・低用量アスピリン併用には利点があると理解されます。心房細動に伴う左心耳内のフィブリン血栓形成をワルファリンで抑制し(文献2) ,血流速度の速い動脈内での粥腫破綻に伴う血小板を主体とした血栓形成をアスピリンで抑えるという考えです。ただし,抗血栓薬の併用は出血性合併症を倍に増加させることになるので,脳出血や消化管出血の予防に十分な注意を払うべきです(文献3)。
脳出血予防の観点からは,十分な血圧管理(収縮期血圧130mmHg未満)を(文献4),また上部消化管出血のリスクの高い症例ではプロトンポンプインヒビターの投与を考慮します。大出血のリスクがきわめて高く,2剤投与することが困難な場合,抗凝固薬を抗血小板薬の代替とすることはある程度可能ですが,逆は真ならずの原則に沿って,抗凝固薬単独で診療する選択もありうるでしょう(文献5)。
1) 心筋梗塞二次予防に関するガイドライン. 2011年改訂版.
[http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_ogawah_h.pdf]
2) 心房細動治療(薬物)ガイドライン. 2013年改訂版.
[http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_inoue_h.pdf]
3) Toyoda K, et al:Stroke. 2008;39(6):1740-5.
4) Toyoda K, et al:Stroke. 2010;41(7):1440-4.
5) 矢坂正弘:抗凝固療法 達人の処方箋. 山下武志, 編. メディカルレビュー社, 2014, p160-2.