【Q】
慢性腎臓病(CKD)患者の多くは高齢者で糸球体濾過量(GFR)は軽~中等度低下ですが(G3aまたはG3b),蛋白尿は<0.5g/gCrで正常(A1)か軽度(A2)です。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」には,血圧値について,糖尿病合併CKD患者では「すべてのA区分において,130/80mmHg未満を推奨」,糖尿病非合併CKD患者では「すべてのA区分において,140/90mmHg未満に維持するよう推奨」,「A2,A3区分では,より低値の130/80mmHg未満をめざすことを推奨」,ただ高齢CKD患者では「過剰な降圧は生命予後を悪化させるため,避けるべき」とあります。
特に高齢CKD患者では起床時に収縮期血圧140~160mmHgでも,昼や就寝時には110~120 mmHg未満と,日内変動が大きな症例が少なくありません。私は高齢者のCKDは早朝高血圧があっても,収縮期血圧110mmHg未満の低血圧を避け,立ちくらみに注意して降圧しているので,ガイドラインを遵守できない症例が多くなります。中山寺いまいクリニック・KDIGO Board Memberの今井圓裕先生はCKD患者の血圧管理目標をいかに達成されていますか。
【質問者】
安田宜成:名古屋大学大学院医学系研究科循環器・腎臓・糖尿病(CKD)先進診療システム学寄附講座准教授
【A】
高齢者の血圧管理をどのようにするかに関して,現在十分なエビデンスがあるとは言えません。高血圧治療に関するガイドライン間でも,高齢CKD患者の降圧目標は異なっています。KDIGOの血圧管理のガイドラインでは,「年齢,合併症,および降圧薬以外の治療を考慮して,患者1人1人に合った診療を行う」として,降圧目標値を示していません。表1は,高齢CKD患者の降圧目標を示したものです。
高齢者であることと,CKD患者であることのいずれのカテゴリーを重視するかはガイドラインによって異なっています。最近のガイドラインでは高齢者に関する項目を別に設けているものもあります。
「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」(以下,「CKD診療ガイドライン2013」)は高齢者の項目があります。その解説には,日本人の成績であるJATOS研究のサブ解析を引用し,CKD患者は収縮期血圧160mmHg以下の降圧で腎機能低下が抑制されることから,成人CKD患者より少し高い降圧目標でもよいのではないかという可能性が記載されています。また,高齢者の血圧研究であるHYVET研究でも150/80mmHg未満の血圧管理を支持しています。
そして,「CKD診療ガイドライン2013」のステートメントでは,高齢者の降圧目標140/90mmHg未満をグレードC1(エビデンスは十分ではないが行ってもよい)として推奨しています。また,糖尿病や尿蛋白がある高齢者には腎機能の悪化や臓器の虚血症状がみられないことを確認しながら,130/80mmHg未満をめざして緩徐に降圧することを同じくC1として推奨しています。
過剰降圧に関しては,「CKD診療ガイドライン2013」のステートメントには「過剰な降圧は生命予後を悪化させるため,避けるべきである」とのみ記載されており,具体的な数値は記載されていません。
平均68歳のCKD患者の血圧管理に関する研究,あるいは平均66歳の糖尿病患者に関するINVEST研究のサブ解析では,収縮期血圧110mmHg未満で死亡のリスクが上昇すると報告されています。またINVEST研究の高齢者のメタ解析では,最も死亡率が低い収縮期血圧は70歳代で135mmHg,80歳以上で140mmHgです。
これらの論文のエビデンスレベルは高くありませんが,死亡するリスクが高くなる収縮期血圧110 mmHgを目標としたランダム化比較試験(RCT)は倫理的に行われる可能性がなく,このデータは重視するべきでしょう。「CKD診療ガイド2012」では,「原則として収縮期血圧110mmHg未満への過剰降圧がみられる場合には,当該の降圧薬を減量あるいは中止して経過を観察する」としています。
私は高齢CKD患者では,75歳以上の人と,65~74歳までの人をわけて考えます。65~74歳のCKD患者には130/80mmHgを,75歳以上の高齢CKD患者には140/90mmHgをめざした降圧療法を行います。これは,130/80mmHg未満(収縮期血圧120mmHg台をめざす),140/90mmHg未満(収縮期血圧130mmHg台をめざす)ではありません。また,測定時間にかかわらず降圧薬によって収縮期血圧110mmHg未満になった場合には,降圧薬を減量,中止しています。先生のように,来院時に立ちくらみがないかどうかを確認することや,血清クレアチニン値で腎機能をモニタリングすることも必須であると思います。