【Q】
高齢者では障害に至る前段階であるフレイル〔frail,虚弱,フレイルティ(frailty)〕の時点で発見して,障害に至らないように介入することが重要です。しかし実際には,フレイルが見過ごされていることが少なくないように感じます。在宅でも容易にフレイルを診断する方法はありますか。また,在宅でフレイルと判断した場合,どのように介入すればよいでしょうか。京都大学大学院・荒井秀典先生のご回答を。
【質問者】
若林秀隆:横浜市立大学附属市民総合医療センター リハビリテーション科
【A】
フレイル(虚弱)とは加齢に伴い,生理的予備能が低下し,ストレスに対する脆弱性が亢進した状態と考えられ,生理的な加齢とは区別すべき状態ととらえられています。現在,フレイルに関しては,身体的,精神心理的および社会的側面からの評価が必要と考えられています。
この中で身体的フレイルに関してはFriedらの指標が最も使用されています。すなわち,体重減少,筋力低下,易疲労感,歩行スピードの低下,身体活動量の低下の5つのうち3項目以上に該当した場合にはフレイル,1~2項目に該当した場合にはプレ・フレイルとするなどと定義づけられています。5項目中,筋力低下と歩行スピードの低下は,サルコペニア(加齢性筋肉減少症)の診断基準と重なっており,サルコペニアは身体的フレイルの重要な要因の1つと考えてよいでしょう。
これらのことから体重減少や易疲労感,身体活動量の変化に関する問診は在宅においても念頭に置くべきものであり,握力の測定も可能であれば実施すべきと考えられます。また,歩容の観察も重要です。
精神心理的フレイルについては軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)との関係が注目されており,在宅の患者さんにおいても手段的ADLや近時記憶に関する問診が重要と考えられます。また,社会的フレイルの評価には独居,経済状況,家族のサポートなどについての情報が重要です。
わが国においては2006年より基本チェックリストを用いた介護予防が行われていますが,この質問紙は手段的ADL,社会的ADL,運動・転倒,栄養,口腔機能,閉じこもり,認知症,うつに関する質問事項からなっており,フレイルの評価にも使用可能ですので,このような情報も活用するべきだと思われます。このチェックリストで二次予防事業対象者と判定されると介護予防プログラム(運動器の機能向上,栄養改善,口腔機能向上,閉じこもり予防・支援,認知症予防・支援,うつ予防・支援)が実施されていますので,受けていない方には積極的に勧めるべきでしょう。
高齢者においてはフレイルを評価し,適切な介入を行うことが重要だと思われますが,どのようなタイプのフレイルかを適切に判断し,それに応じた介入が必要となります。サルコペニアが身体的フレイルの要因となっているので,十分な蛋白質の摂取とレジスタンス運動,有酸素運動の指導をすべきだと思われます。医師の指導のみならず,理学療法士や管理栄養士,看護師など多職種での介入を行うほうがよいでしょう。また,polypharmacyによってフレイルが進行する場合もあり,薬剤については,在宅患者においても定期的にそれぞれの薬剤の必要性を見直す必要があります。特にベンゾジアゼピンや抗コリン作用を持つ薬剤の長期投与については,減量・中止の可能性の有無を検討する習慣をつけるべきでしょう。