高齢者の愁訴は実に様々である。耳鳴りがする,めまいがする,膝がしぶる,寝られない,トイレが近い,目がかすむ,人の名前が出てこない,など枚挙にいとまがない。老年症候群とは,これら“年のせい”とされてきた症候のうち,特に,疾患につながる重要なもの,「高齢者に多い,あるいは特有な症状所見の総称」を指す。PubMed(1990~2005)掲載論文に関するシステマティックレビューは,各老年症候群(褥瘡,尿失禁,転倒,ADLの依存度,せん妄)の共通したリスク因子が年齢,運動能力低下,認知機能低下,生活機能低下であったと報告している(文献1)。
近年,老年症候群はフレイル(frailty)な患者が有するQOLや健康寿命を規定する症候として,また介入のターゲットとして注目されている。老年症候群の数は年齢とともに増加し,ADLの低下と相関がある。特に,後期高齢者で増加する症候は在宅維持阻害要因となる。また,老年症候群の各症候は相互に関連するため,1つの症候への介入で他の症候の改善が見込める。たとえば,痛みやしびれが軽快することで意欲が改善し外へ出られるようになったり,食欲がなく痩せてきていた者が入れ歯を調整しただけで元気になったりする。
老年症候群把握の一助に患者・家族への予診票が有用である。筆者らの予診票(http://www.kyorin-u.ac.jp/univ/user/medicine/geriatrics/pdf/pre-exam.pdf)は17項目からなり8つの老年症候群を検出するが,ADL低下のみならず認知機能低下,うつ症状や,介護負担度の推定が可能である(文献2)。
1) Inouye SK, et al:J Am Geriatr Soc. 2007;55(5):
780-91.
2) 永井久美子, 他:日老医誌. 2014;51(2):161-9.