甲状腺疾患は頻度の高い疾患であり,女性では男性に比し5~15倍も多い。バセドウ病の好発年齢は20~40歳,橋本病の好発年齢は30歳以降とされるが,出産年齢が高くなった昨今,妊娠に合併する確率が高い。Poppeら(文献1)によると,不妊症女性における潜在性甲状腺機能低下症の出現率は平均11.7%,不妊症女性における甲状腺抗体の出現率は平均18.0%と報告されている。また,齋藤(文献2)の報告によると,不育症女性における甲状腺機能異常の出現頻度は6.8%であった。
顕性の甲状腺機能異常に加え,最近注目されているのが妊娠に合併する潜在性甲状腺機能低下症である。ATA(American Thyroid Association)のガイドライン2011では,妊婦においてTSH 10
mIU/L以上でFT4低下を顕性甲状腺機能低下症,TSH 2.5~10mIU/LでFT4が正常範囲内を潜在性甲状腺機能低下症としている。潜在性甲状腺機能低下症においても,積極的なLT4治療により不妊症や不育症が改善すると報告されている。妊娠早期より甲状腺機能を正常化することが重要であり,治療目標として妊娠第1期にはTSH 0.1~2.5
mIU/L,第2期には0.2~3.0mIU/L,第3期には0.3~3.0mIU/Lが示されている(文献3)。甲状腺自己抗体が陽性の妊婦では,妊娠初期に甲状腺機能が正常であっても後に甲状腺機能低下症が発症する危険性があるため,特に注意が必要である。
1) Poppe K, et al:Nat Clin Pract Endocrinol Metab. 2008;4(7):394-405.
2) 齋藤 滋:HORM FRONT GYNECOL. 2012;19(1):11-6.
3) Stagnaro-Green A, et al:Thyroid. 2011;21(10):1081-125.