周知のごとく,病気や体調不良などにより従業員が会社を欠勤することを「アブセンティーイズム(病欠):absenteeism」という。一方,出社しているのにもかかわらず,心身の状態の悪さから生産性がなかなか上がらない状態のことを「プレゼンティーイズム(疾病就業):presenteeism」という。プレゼンティーイズムとは,アブセンティーイズムという言葉に「プレゼント(出席):present」を組み合わせて作成された造語である。
これまでの企業の労務管理では,アブセンティーイズムによる生産性の低下が問題視されてきた。しかし近年,出社していても,何らかの不調のために心身が思うように働かず,本来発揮されるべきパフォーマンス(職務遂行能力)が低下しているプレゼンティーイズムのほうが,経済的損失は大きいことが注目されつつある。プレゼンティーイズムの中には,経済的な理由から,仕事に対する熱意低下や,体調不良の状態でも出社している従業員が含まれており,企業にとっては個人だけの問題にとどまらず周囲への影響も懸念されるため,アブセンティーイズムよりも大きな問題であると考えられている。
今後,企業における健康管理を進める上で,医療費よりもコストがかかっているとされるアブセンティーイズム,プレゼンティーイズムを含めた健康評価が重要であり,これらに影響を与えている要因の解析が必要になってくるであろう。
【解説】
加藤貴彦 熊本大学公衆衛生学教授