【質問者】
角田洋一 東北大学病院消化器内科
欧州や北米などでは,食道腺癌の発生率が,最近30年で6~7倍にも増加したという報告があり,他のすべての癌と比べても最も急速に増加している癌と考えられています。一方,日本を含むアジア地域などでは,食道腺癌の明らかな増加はみられず,食道癌の大多数は扁平上皮癌という状況です。
欧米で食道腺癌が急激に増加した背景として,Hp感染率の低下,肥満の増加などいくつかの要因が挙げられています。Hp感染は,逆流性食道炎,バレット食道,食道腺癌と続く一連の胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux disease:GERD)関連疾患に(特に,東アジア地域では強く)抑制的に働くことが知られています。わが国においても,Hp感染率の低下に伴い,既に逆流性食道炎の増加が報告されており,今後,食道腺癌は増加すると考えられます。
一方で,欧米人と比べ,日本人の肥満の割合はかなり低く,今後も肥満はそれほど増えないと予想されています。また,GERDは胃酸関連疾患であり,胃酸分泌のレベルはGERDの発症,重症化に関連しますが,日本人の胃酸分泌のレベルは,最近20年間で変化はなく,欧米人の60%程度で推移しています。したがって,Hp感染率の低下に伴って,将来的にわが国においても食道腺癌の発生は増加するものの,欧米でみられるような急激な増加にはならないだろうと予想されます。
【回答者】
飯島克則 秋田大学大学院医学系研究科 消化管内科学講座教授