(質問者:東京都 S)
逆流性食道炎とは,胃液あるいは胃液と混ざった食物が食道に逆流し,食道の粘膜に炎症を引き起こす疾患のことを言います。胃液は強い酸性の胃酸を含んでおり,食道粘膜は胃粘膜と異なり酸性への防御力が弱いことから,胸焼けや口の中が酸っぱくなるなどの症状が現れます。
健常者では,食道と胃の接合部分の下部食道括約筋により食道への逆流を防御していますが,加齢による筋力低下で逆流症状が進むと言われています。しかし近年,肥満者の増加や,肥満に伴う便秘などで腹圧が上昇している人の増加により,若年者にも逆流性食道炎が増えていると言われています。症状緩和のための日常的な予防策としては,消化の悪いものの摂取や暴飲暴食を避けることが肝要です。
治療法としては,その病態から胃酸を抑えることが最も有効であり1),薬物療法ではプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)の投与が第一選択となります。胃酸の分泌機序の概略は以下の通りです。胃壁細胞にはムスカリン受容体,ガストリン受容体,ヒスタミン受容体があります。プロトンポンプとは胃粘膜の壁細胞にある酵素のことで,アセチルコリン,ヒスタミン,ガストリンといったホルモンが受容体と結合すると,胃酸を分泌する働きをします。PPIは,この作用機序を直接的にブロックすることで胃酸(塩酸)が放出されるのを抑制します。強力に胃酸の分泌をコントロールできるので,高い確率で症状改善が望めます。
日本消化器病学会が編集する「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン」2)においても,PPIの投与がGERDに対して推奨度A(行うよう強く勧められる)の治療として記載されています。
【文献】
1) 岡部 進:日薬理誌. 1986;87(4):351-60.
2) 日本消化器病学会, 編:胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン. 南江堂, 2009.
【回答者】
坂東悦郎 静岡がんセンター胃外科医長