日本高血圧学会(梅村敏理事長)は15日、学会誌『Hypertension Research』(石光俊彦編集委員長)に2011年に掲載されたVART研究の主論文を撤回すると発表した。責任著者の小室一成東大教授(日本循環器学会代表理事)より「現存するデータでは適切に訂正することができないhonest errorがあるため、取り下げる」との申し出がなされたことから、編集委員会と理事会が検討し、撤回を決定した。
VART(the Valsartan Amlodipine Randomized Trial)は、ノバルティスファーマ社の降圧剤バルサルタン(商品名=ディオバン)とアムロジピンを比較した臨床試験。小室氏が千葉大教授在任時に同大で実施された。主要評価項目の心血管イベントで有意差はなかったが、尿中アルブミン/クレアチニン比などの副次評価項目はディオバンが有意に優っていたと発表された。しかしその後、ディオバンを用いた臨床試験に関して疑義(用語解説)が指摘され、千葉大は14年に公表した調査報告書の中でVARTについて「信頼性に著しく欠け、科学的価値も乏しい」と指摘。学長が著者に撤回を勧告していた。
ディオバンを用いた日本の臨床試験は、論文発表年順にJikei Heart Study(実施大学=慈恵医大)、SMART(滋賀医大) 、Kyoto Heart Study(京都府立医大)、VART(千葉大)、Nagoya Heart Study(名大)の5試験ある。今回の撤回により、Nagoya Heart Studyを除く4試験は主論文、サブ解析論文ともに撤回されたことになる。
なお、東京地裁では昨年12月から、Kyoto Heart Studyの論文データを改竄したとして薬事法違反(虚偽広告)の罪に問われたノバ社の元社員に対する公判が続いており、結審は秋頃の見通し。
●用語解説
【ディオバン臨床試験の疑義】
由井芳樹医師(京大、当時)が2012年、Lancet誌で血圧値の統計的異質性を指摘したことがきっかけとなり、不正が発覚。その後、ノバルティスファーマ社の元社員が起訴されたことでディオバン事件へと発展した。問題の詳細は本誌No.4808(2016年6月18日号)の特別企画「ディオバン事件─問題点と教訓を考える」で由井氏が解説している。