気道粘液は,外界から侵入した病原微生物や粉塵に対する物理的バリアとして生体防御的役割を担っている。健常時,気道粘液は粘液線毛輸送により口腔内に排出され,自然に嚥下処理されている。しかし,呼吸器感染症や慢性気道炎症性疾患では,気道粘液産生が過剰になり気流閉塞が惹起される。このような過分泌病態では,咳受容体を介した咳嗽反射(湿性咳嗽)が喀痰喀出のために必要であり,鎮咳はかえって気流閉塞を助長することになる。治療には,喀痰喀出の誘導・促進,気道粘液産生の抑制を考えるべきである。現在,喀痰喀出の誘導には去痰薬や喀痰調整薬が,気道分泌の調整には14員環マクロライド系抗菌薬や抗コリン性吸入薬が用いられている。
近年,喀痰の主要成分である気道ムチンMUC 5AC,MUC5Bの遺伝子発現メカニズムや気道における役割が明らかにされてきた。MUC5ACとMUC5Bの欠損マウスでは,MUC5Bは生体防御的因子として機能するのに対し1),MUC5ACは気道過分泌疾患の病態形成に関与していることが示された2)。MUC5ACの発現は上皮成長因子受容体やIL-13受容体を介しており,両経路の阻害は気道分泌亢進に対する治療戦略として有望である。従来,気道分泌の抑制による気道防御機能の障害が危惧されてきた。今後はムチン産生を選択的に制御することで,防御機能の保持と気道過分泌の抑制を両立できる分子標的薬の開発が期待される。
【文献】
1) Roy MG, et al:Nature. 2014;505(7483):412-6.
2) Bonser LR, et al:J Clin Invest. 2016;126(6): 2367-71.
【解説】
武山 廉 東京女子医科大学内科学第一准教授