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(2)肥満症の集学的治療 [特集:現在の肥満症治療のあり方]

No.4698 (2014年05月10日発行) P.20

龍野一郎 (東邦大学医学部医学科内科学講座糖尿病・代謝・内分泌分野(佐倉)教授 東邦大学医療センター佐倉病院糖尿病・内分泌・代謝センター教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-04-05

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  • BMI≧35で糖尿病などを合併する高度肥満患者に対して,腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険適用となった

    肥満外科治療の登場によって肥満症の抱える問題がすべて解決するわけではない

    肥満外科治療も治療選択肢のひとつとする個別化された集学的治療が求められる

    1. なぜ,肥満症に集学的治療が必要なのか?

    わが国では病気の発症あるいは悪化に関わり,減量を必要とする肥満状態を肥満症と定義し,積極的な治療介入を勧めている1)~3)。最近では,肥満外科治療によって肥満2型糖尿病が高率に改善することが明らかになり,新たな糖尿病治療としても注目されてきた。そして2014年4月からBMI≧35で糖尿病などを合併する高度肥満患者に対して,肥満外科治療の中の腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険適用となった4)
    しかしながら,肥満外科治療の登場によって肥満症の抱える問題がすべて解決するわけではない。肥満外科治療によって好きなだけ食べても太らない健康な体になるという考えも間違いである。外科治療は過食・運動不足の根本的な病態を治すわけではなく,長期的なデメリットも存在する。その意味で,内科的治療が肥満症治療の基本であり,肥満を助長してきた個人の資質・社会医学的背景を理解した上で,肥満外科治療を治療選択肢のひとつとした集学的な肥満症治療を実施することが求められている3)

    2. 肥満の病態に基づく集学的な内科的治療

    近年,肥満症治療に関連して,国内外で軽度(5~10%)の体重減少により肥満に伴う糖尿病,脂質異常症(高脂血症),高血圧の改善や正常化がみられるという報告が相次ぐようになり,過剰体重を標準体重に戻すことを求めるのではなく,肥満に伴う病態の改善が肥満症の治療であるという概念が確立した。
    日本肥満学会では,肥満症における減量目標として,耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常),高血圧,高脂血症,高尿酸血症を合併する内臓脂肪型肥満(25≦BMI<30)に対しては5%減を目安に減量目標を設定し,整形外科的疾患,睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS),月経異常などを合併しやすいBMI≧30の肥満症では5~10%減を目安に減量目標を設定することが推奨されている5)
    肥満症治療の原理は,摂取エネルギーの制限と消費エネルギーの増加によりエネルギーバランスを負にすることであり,それに合わせた食事量・運動量を処方すればよい(図1)。しかし,食事・運動療法は,日常生活の中で行わなければならないだけにきわめて困難である。その理由として,①社会全体が運動を制限するような環境に整備されてきている,②食物は商業主義のもとにありふれ,加工品も習慣的に多く食べてもらえるような嗜好形成をめざしてつくられている,③個々人の慣れ親しんだ習慣は長年の蓄積の結果であり,変化させることが難しい,④食物を心の慰めとしている,などを挙げることができ,それぞれの因子が違った重みで集積されている。加えて,肥満症患者の特徴的なパーソナリティーの形成にも遺伝的背景,生い立ち,環境,出会いなどが絡んでおり複雑である。また,食事制限や運動を無理矢理頑張らせることで,一時的な減量はできても,通院中断・リバウンド,あるいはうつ病傾向を助長してしまうなどの重篤な事態をまねくこともある。
    したがって,従来の外来診療体制による,患者への「ああしなさい」「こうしなさい」的な指導がむなしく,効力がないどころか,本当は心的外傷を負わせているのかもしれない。押しつけがましい指導が効果を上げられないことは一目瞭然であり,十分な治療効果が得られないことを患者の責任にしてしまうことも慎まねばならない。

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