糖尿病における血糖コントロールは,網膜症,腎症,神経障害などの細小血管障害の発症を予防し,冠動脈疾患や脳梗塞などのリスクも低下させる。しかし,血糖降下治療による副作用のひとつである重症低血糖は,心血管疾患や認知症の発症リスクになる。したがって,高齢者では,「年齢」「罹病期間」「合併症の状態」「身体機能や認知機能」「低血糖のリスク」「サポート体制」などを勘案して,血糖コントロールの目標値が設定されるべきである。
このたび,日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会によって,「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」が作成された1)。この目標では,高齢糖尿病患者を「身体機能」と「認知機能」によって3つのカテゴリーにわけ,さらに「重症低血糖が危惧される薬剤の使用の有無」によって2つにわけ,計6つのカテゴリーに分類して目標が設定されている。身体機能・認知機能が正常で,重症低血糖の危惧のある薬剤が使用されていない場合には,従来通り「HbA1c 7.0%未満」が血糖コントロール目標となるが,中等度以上の認知症,基本的ADLの低下,多くの並存疾患・機能障害がある患者で,重症低血糖の危惧のある薬剤が使用されている場合には,「HbA1c 8.5%未満」にゆるめられる。また,この目標においては,重症低血糖の危惧のある薬剤が使用されている場合には,治療目標の下限値も設定されている。
【文献】
1) 日本糖尿病学会:高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について. 2016. [http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=66]
【解説】
梅垣宏行 名古屋大学医学部附属病院 地域在宅医療学・老年科学講師