日本人のピロリ菌感染率は,近年,急速に低下しており,それに伴い上部消化管領域の疾患構成が大きく変わろうとしている。すなわち,従来,上部消化管疾患の中心であったピロリ菌関連の胃癌,消化性潰瘍から,ピロリ菌と関連しない逆流性食道炎,バレット食道,食道腺癌,および薬剤性の消化性潰瘍へと移行しつつある。
わが国では,大腸癌死亡者数が急速に増加しており,大腸癌の有効なスクリーニング法が求められていた。2012年に大腸CT検査(CT colonography),2014年には大腸カプセル内視鏡が保険適用となり,大腸検査を目的とした2つの低侵襲モダリティーが臨床現場に加わった。大腸癌発見率の向上に寄与するものと期待される。
ウイルス肝炎治療も大きく変わろうとしている。種々のdirect acting antiviral(DAA)製剤が開発されており,C型肝炎治療には,2014年8月からペグインターフェロンを用いないDAA経口治療であるダクラタスビル(NS5A阻害薬)とアスナプレビル(NS3/4A阻害薬)併用治療が薬価収載となった。B型肝炎治療では,テノホビルが2014年から使用可能となり,エンテカビル耐性HBVに対しても対処が可能となった。
膵癌診療のトピックは,ゲムシタビン療法に対する優越性が証明された多剤併用療法FORFIRINOXの国内での保険承認である。副作用が強い治療法であり,今後,日本人に適したレジメンの開発が期待される。
膵炎領域では,2013年にアトランタ分類が改訂され,膵局所合併症が新たに定義された。死亡率の高い感染性被包化膵壊死(感染性WON)に対しては,まず,ドレナージを行い,無効例に低侵襲ネクロセクトミーを行うstep-up approachが推奨され普及しつつある。
食道腺癌は,1980年代から欧米を中心に急速に増加しており,肥満との関連が指摘されている。Kroepらは,米国,オランダ,スペインの3カ国での食道腺癌と肥満の年代別変化を比較している1)。その結果,3カ国とも食道腺癌の発生数が増加しているが,癌発生数と肥満頻度がパラレルには推移せず,両者の関連は薄いと報告している。
食道腺癌と肥満の関連について定量的にみた他の検討でも,肥満は食道腺癌の原因として10%以下を占めるのみであった2)。代わりに,食道腺癌増加の主要な原因として,欧米諸国で20世紀中旬から認められるヘリコバクター・ピロリ感染率の減少が考えられている。Chenらは,全米国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey Ⅲ:NHANES Ⅲ)における血液サンプルを使用し,ピロリ菌の有無別に種々の疾患との関連について約1万人にのぼる多数例での前向きコホート研究を行った3)。その結果によると,ピロリ菌感染は胃癌死亡と相関していたが,脳卒中死亡とは逆相関がみられるなど,人体にとって有害な面と有益な面が示され,全体としては全死亡率に大きな影響は及ぼさないことが示された。
近年,低用量アスピリン内服者の増加などに伴い,薬剤性の胃・十二指腸潰瘍が世界的に増加しており,その対策が急務である。Chanらは,低用量アスピリン起因性出血性潰瘍の10年間にわたる長期経過を報告し,ピロリ菌陽性であれば,除菌することで,その後の潰瘍再発が著明に抑制されることを明らかにし4)〔ピロリ菌陰性者ではプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)の継続投与が必要〕,この内容はいち早くヨーロッパのガイドラインに取り入れられた5)。ただし,潰瘍歴を有しないすべてのピロリ菌陽性のアスピリン内服者に除菌すべきかについては結論が出ていない。
【文献】
1) Kroep S, et al:Am J Gastroenterol. 2014; 109(3):336-43.
2) Kong CY, et al:Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2011;20(11):2450-6.
3) Chen Y, et al:Gut. 2013;62(9):1262-9.
4) Chan FKL, et al:Gastroenterology. 2013;144(3):528-35.
5) Malfertheiner P:Gut. 2012;61(5):646-64.
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