妊娠期乳癌は比較的稀であり,約3000妊婦に1人と言われ,その頻度は出産年齢の高齢化に伴い増加傾向にある。以前,妊娠期にがんと診断されると,母か子の命かどちらか一方を選ばなくてはいけない時代があった。しかし今,私たちがめざすのは,妊娠継続とがん治療の両立である。
妊娠期であっても,胎児に影響のない範囲で検査を施行し,がんのステージに合わせた治療が可能である。産科医や麻酔科医との連携のもと,妊娠中期以降であれば全身麻酔の手術は安全に行うことができる。化学療法も進行度から早期の治療が望ましい場合には,胎児の状態を把握しつつ慎重な投与が可能である。当センターでは,妊娠期の安全が経験上確認されている薬剤を選択し,化学療法の投与回数・最終投与,分娩時期についてカンファレンスで検討しつつ治療を行っている。
妊娠期の化学療法は,誰もが子どもへの影響を心配すると思うが,筆者らが今までに経験した中では,胎児死亡例はなく,出生時にも重篤な合併症をきたした症例は経験していない。当センターでは,胎児期に化学療法に曝露した乳児の長期的予後の研究を行っている。心疾患を有する児は認めず,10歳以上の児は皆,第二次性徴を迎え,把握できる範囲では化学療法の曝露に伴う疾患や影響は一般的な頻度よりも高い結果は認めなかった。わが国のみならず諸外国の報告でも同様である。
今後も経過を見つつ,妊娠継続とがん治療の両立を図りながら2つの命を守っていきたい。
【解説】
深津裕美*1,山内英子*2 *1聖路加国際病院乳腺外科 *2同部長・ブレストセンター長