サルコペニアと呼ばれる骨格筋・筋肉(sarco)が減少(penia)した病態が近年注目されている。当初は加齢に伴う病態として提唱されたが,現在では「骨格筋量の低下と筋力あるいは身体能力の低下を併せ持つ病態」と定義されている。
骨格筋量は,主に二重エネルギーX線吸収法やCT/MRIといった画像解析,体組成計による生体電気インピーダンス解析で評価されるが,スクリーニング手段として,下腿の最大周径を測定するといった簡便な評価方法も報告されている。
サルコペニアは,院内感染患者,心臓外科手術,肝移植などの様々な病態・術式における予後不良因子であることが示されており,がん患者においても,サルコペニアは術後合併症の増加や生命予後の悪化と関連することが報告されている。
当院での検討でも,サルコペニアは,食道癌に対する食道切除術後の呼吸器合併症と相関している1)。また,胃癌に対する腹腔鏡下胃全摘術後の手術部位感染(SSI)がサルコペニアと内臓肥満の合併患者に有意に多いこと2)など,骨格筋の減少は上部消化管外科手術の治療成績に好ましくない影響を及ぼすことが明らかになっている。
このため,治療成績向上のためには,これらハイリスク群患者への積極的な栄養学的治療の介入や術前リハビリテーションの導入などが,今後の検討課題と考えている。
【文献】
1) Nishigori T, et al:Ann Surg Oncol. 2016;23 (Suppl 4):524-31.
2) Nishigori T, et al:J Surg Oncol. 2016;113(6): 678-84.
【解説】
角田 茂*1,坂井義治*2 *1京都大学消化管外科講師 *2同教授