卵巣予備能(ovarian reserve)は,ある時点の卵巣に含まれる卵の質と量を反映する概念であると定義され,卵巣予備能の指標となる検査はovarian reserve test(ORT)と呼ばれる。1990年代に入り体外受精が普及すると,様々なORTが採卵数や治療周期の妊娠成立の予測因子となりうるかどうか検証されるようになった。女性において出生後の卵巣顆粒膜細胞から産生・分泌される抗ミュラー管ホルモン(anti-Müllerian hormone:AMH)は,2000年代初頭から体外受精治療周期において,ゴナドトロピン製剤を使用した卵巣刺激に対する反応性と良好な相関があることが報告されるようになった。
従来の卵巣機能の指標であった卵胞刺激ホルモン(FSH)と比較して,AMHには25歳頃をピークとし,加齢とともに減少し年齢とリニアな相関がある,月経周期内の変動が少ない,といった利点があり,生殖補助医療以外の分野でも応用が進みつつある。たとえば,顆粒膜細胞腫や多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の補助診断マーカーとしての有用性が検証されているほか,抗癌剤治療や卵巣手術(卵巣囊腫や子宮内膜症性囊胞摘出術)などによる卵巣機能低下が,血清AMH値を用いることによって定量的に評価可能となっている1)。
【文献】
1) Iwase A, et al:Reprod Med Biol. 2016;15(3): 127-36.
【解説】
岩瀬 明 名古屋大学医学部附属病院 総合周産期母子医療センター教授