漢方には,便通を改善する方剤が十数種類あり,患者の体力や状態,便秘の性質に適した方剤を選んで使う
漢方による便秘の治療は,単に「下す」のではない。温める,熱をとる,潤す,微小循環を改善する,といった,漢方ならではの治療方法がある
生薬の大黄に,ほかの生薬をいくつか組み合わせた方剤を使うことが多いが,一般の下剤で下痢や腹痛をきたすような人には,大黄を含まない方剤を選ぶ
便秘以外に症状がない,中等度以上の体力の人には,大黄甘草湯を頓服させる
高齢者の便秘には,麻子仁丸が効く。1日の満量ではなく,少量から様子をみながら使う
漢方で便秘を治療すると,ほかの体調不良も改善することが稀ではない
漢方の方剤はほとんどの場合,天然の生薬が二味(2種類)以上で構成されている。生薬は複数の成分を含むので,ひとつの漢方方剤は多成分で成り立っていることになる。これが単一の有効成分でつくられる医薬品との大きな違いである。多成分であるということは,一方剤から得られる効果がひとつとは限らないということでもある。
また,漢方治療をしていると,主訴にあたる症状だけではなく,何の関係もないように見えるところにも効果が現れて,患者に喜び驚かれることが稀ではない。患者の状態に合わせて漢方方剤を選んで処方するのであるから,同じ原因で不調をきたしていたところがほかにもあれば,当然そこも良くなるわけなのである。患者(や病気)の性質や状態を,漢方では「証」と呼ぶ。この「証」に合った方剤を選ぶことで,たとえば便秘ならば便秘を治すと同時に,ほかの心身の不調も治すことができるのが漢方の醍醐味である。
現在,保険適用されている漢方方剤(エキス顆粒)は約150種類あり,そのうちの1割近くもの方剤に「便秘」の効能(保険適用病名)がある。その他,効能に「便秘」はないが,便秘をきたしている原因を治すことで,結果として便通が良くなることが経験的に知られている方剤もいくつかある。それらを合わせると,計十数種類の漢方方剤が便秘の治療に使われている。これは一人の患者に対して,この十数種類の方剤のどれを使ってもよいということではない。数パターン,強弱合わせて十数方剤を,1人ひとりの患者の「証」に合わせて使うということなのだ。注意が必要なのは,「証」に合わない方剤を使うと便秘が改善するどころか,かえって患者の具合が悪くなりかねない点である。
本稿ではまず初めに,便秘の一般的な分類にしたがって,便秘のタイプ別にどんな漢方方剤を使えばいいのかを説明する。
次に東洋医学的な診断とそれに適した漢方方剤を説明する。漢方独自の温める・熱をとる・潤す・微小循環を改善するといった効果で,単に「下す」のではない便秘の根本的な治療ができる場合がある。
最後に,大黄などいくつかの生薬を解説する。漢方方剤は構成生薬をみるとより理解が深まるので,大黄を含む方剤と便秘の改善に使われる代表的な方剤の構成生薬を一覧にした表も添付した(表1)。
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