非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),アスピリン(ASA)による小腸粘膜傷害で貧血や消化管出血を起こすことがある。原因不明の消化管出血を認めたら,カプセル内視鏡などで小腸検査を行うことが勧められる
NSAIDs小腸潰瘍の治療は,薬剤の中止が第一である。中止して治癒しなければ原因はNSAIDsではない
プロトンポンプ阻害薬(PPI)がNSAIDsの小腸病変を増悪させるとの報告が増加している。PPIは必要時に必要量使用することが肝要である
胃酸・ペプシンという明瞭な攻撃因子のある胃と比較して,小腸における非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)起因性小腸粘膜傷害の原理は複雑である。NSAIDs自体が攻撃因子のひとつで,通常型NSAIDsは腸肝循環して胆汁内濃度が高く,腸肝循環が関与している1)。小腸内の攻撃因子としては,胆汁と膵液などの消化液に加えて腸内細菌がある。小腸粘膜傷害にはこれらの因子が複雑に絡んでいる。現在,NSAIDs起因性小腸粘膜傷害は,小腸上皮に対するNSAIDsの直接作用でミトコンドリアを主とする障害が起こり,粘膜上皮細胞のアポトーシスや小腸上皮細胞間の結合部障害が引き起こされて粘膜透過性が亢進し,上皮内・粘膜下に腸内細菌や消化液などの腸管内容が侵入して炎症が惹起するものと考えられている1)。しかし,腸管粘膜における粘膜免疫を含めた防御力は強力で,NSAIDsの直接作用だけでは粘膜破壊を伴うような強い粘膜傷害は通常起きない。
cyclooxygenase-1(COX-1)はプロスタグランジン(prostaglandin:PG)を介して,腸上皮粘膜の粘液産生や血流を保つことなどにより腸管内容による攻撃から腸粘膜を守っている。NSAIDsによる小腸粘膜透過性の亢進がPGにより回復することが実験的に認められ,さらにヒトにおいてPG製剤であるミソプロストールの同時投与がNSAIDsによる小腸粘膜の透過性の亢進を予防することが報告されている2)。つまり,PGは小腸粘膜透過性亢進というNSAIDs起因性小腸粘膜傷害の重要な初期過程に強く関与している。NSAIDsによりCOX-1が障害されPGが欠乏するとこれらの防御力は減少し,腸管内容の腸粘膜侵入が容易になり,炎症が惹起・増強する。
現在,粘膜上皮の破壊を伴う粘膜欠損にはCOX-1の阻害が必須であると考えられている3)。このため,アスピリン(acetyl salicylic acid:ASA)のようなCOX-1を抑制する薬剤やCOX-1, 2をともに抑制するCOX非選択的NSAIDsで小腸粘膜欠損の生じる頻度が高い。抗血栓薬は様々あるが,ASA以外では小腸粘膜傷害に関するエビデンスが非常に少ない。したがって,ここでは抗血栓薬としてはASAを中心に論じたい。
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