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ABC分類でピロリ菌未感染者以外がA群に紛れ込む病態とは?【除菌治療を受けたことのある人は極力A群から除外する】

No.4860 (2017年06月17日発行) P.61

井上和彦 (淳風会健康管理センター副センター長/ 淳風会旭ケ丘病院院長代理/内視鏡センター長)

登録日: 2017-06-13

最終更新日: 2017-06-13

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  • 胃癌検診におけるABC分類で「偽A群」に属する病態に「過去の除菌治療」が挙げられていますが,これはどのような理由によるものでしょうか。

    (高知県 F)


    【回答】

    (1)ABC分類およびA群とは
    胃癌発生に大きく関与しているヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染と胃粘膜萎縮について簡便な血液検査で判断する方法を胃癌リスク層別化検査と言い,この検査による結果を,通称「ABC分類」と呼ばれる方法で分類します。

    この分類は血清ピロリ抗体(ピロリ抗体)と血清ペプシノゲン(pepsinogen:PG)法の組み合わせで行い,ピロリ抗体(-)・PG法(-)をA群,ピロリ抗体(+)・PG法(-)をB群,PG法(+)をC群と分類します。C群についてはピロリ抗体(+)をC群,ピロリ抗体(-)をD群とすることもあります。

    A群は,理論的にはおおむねピロリ菌未感染の人と判断しますが,実際には,ピロリ菌に以前に感染していた人や今も感染が持続する人が紛れ込むことがあり,「A群=ピロリ菌未感染」とならないことが10%程度あります。これが,いわゆる「偽A群」と言われるものです。ただし,ピロリ抗体,PG法ともに陰性ですから,ABC分類の定義としてはA群になりますし,未感染ではない人に対する「偽」という表現は避けたほうがよいのではないかと常々思っています。

    (2)A群中に含まれるピロリ菌未感染者以外とは
    A群中に含まれる未感染者以外として最も多いのは,ピロリ菌除菌後の人です。わが国においては,2000年に胃潰瘍・十二指腸潰瘍に対し,また2010年には早期胃癌内視鏡治療後胃・胃MALTリンパ腫・特発性血小板減少性紫斑病(現・免疫性血小板減少症)に対してピロリ菌の保険診療が認められました。さらに2013年には,上部内視鏡検査で確認という前提条件はあるものの,胃炎に対しても保険適用が拡大され,除菌治療を受ける患者は非常に増加しています。

    除菌成功後には,組織学的胃炎の改善に伴い,血清PGⅠ,PGⅡはともに低下し,かつPGⅡの低下率のほうが大きいため,Ⅰ/Ⅱ比は上昇します。そのため,萎縮性胃炎が進展した症例でも,大部分がⅠ/Ⅱ比>3.0となります。PG値は胃粘膜の炎症と萎縮を反映しますが,そのうち萎縮を拾い上げる方法がPG法であり,一般に,PGⅠ≦70ng/mLかつⅠ/Ⅱ比≦3.0をPG法陽性とすることがほとんどです。除菌に成功すると,大部分の人でⅠ/Ⅱ比>3.0となりますので,仮にPG法判定を行うと,陰性になってしまいます。またピロリ抗体価も徐々に低下し,数年もすれば大部分が陰性化します。したがって,ピロリ菌除菌成功後に,仮にA BC分類判定を行った場合,大部分はA群となってしまいます。

    ピロリ菌感染胃炎に対する除菌治療は,オッズ比0.66で胃癌発生率を低下させるというメタアナリシスの報告1)があるように,除菌による胃癌発生リスクの低下が期待されていますが,リスクは残存し,未感染の人と同レベルになるわけではありません。したがって,除菌後にピロリ抗体価やPG値の実測値で胃粘膜の状態を把握するのはよいのですが,ABC分類は行うべきではなく,E群(eradication群)2)と別扱いし,定期的画像検査によるサーベイランスが必要です。

    ピロリ菌除菌成功後以外には,他の感染症に対する抗菌薬で偶然に除菌された場合や,胃粘膜萎縮の高度進展に伴いピロリ菌が検出できなくなった場合が,A群中に含まれる未感染者以外として考えられます。

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