これまでわが国においては,小児における重症心不全の治療は強心薬の点滴静注が原則になっていた。さらに重症化した場合,残された治療手段は膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO),つまり体外循環を装着するしか方法がなかった。ECMOは強力な循環補助能力を有しているが,深沈静下に人工呼吸器管理を行う必要があり,出血性合併症,血流感染,脳梗塞などの血栓塞栓症が少なからずみられた。また,1カ月以上の長期の補助は困難なことが多かった。
2010年に臓器移植法が改正され,わが国においても小児の心臓移植を行うことが可能となった。わが国では脳死ドナーからの心臓医提供はかなり限られており,長期の待機期間が必要である。成人においては,長期の循環補助を可能とする補助人工心臓(VAD)が承認されていたが,小児においては一定の体格がないと使用できなかった。
このような閉塞状況を打開するために,世界で最も多く使用されている小児用VADであるBerlin Heart EXCORⓇ Pediatricの医師主導治験が東京大学,大阪大学,国立循環器病研究センターの3施設で行われた1)。9例を対象にEXCORⓇが装着されたが,世界に類を見ない全例生存という素晴らしい結果をもって15年8月から健康保険の適用が開始された。装着を行うために施設認定が必要となるが,既に全国で9病院が実施施設として認定されている。今後もさらに実施施設は増加する見込みである。承認後既に約14例の装着が行われ,全員が生存中である。
【文献】
1) 小野 稔:小児科. 2016;57(11):1361-7.
【解説】
小野 稔 東京大学心臓外科教授