酸分泌抑制薬の主流は,H2受容体拮抗薬(H2RA)からプロトンポンプ阻害薬(PPI)にシフトしてきた
H2RAとPPIにはそれぞれの特性がある
近年,日本人の胃酸分泌量は確実に増加しており,酸関連疾患制御の重要性は確実に増加している
胃酸は胃体部の壁細胞から分泌されるpH 1〜2の塩酸である。元来,胃酸は消化吸収に重要な役割を持ち,蛋白分解酵素であるペプシンの活性化や,カルシウム,鉄などの無機質の吸収に寄与している。さらには,経口的に侵入する病原微生物などを殺菌する効果も併せ持つ。
その一方で,胃酸は強力な組織傷害性も有しており,従来より病的因子としての側面が強調されてきた。その代表的なものは消化性潰瘍(胃十二指腸潰瘍)であるが,胃食道逆流症(逆流性食道炎,Barrett食道)のみならず機能性胃腸症などにおける胃酸の病原性が注目されつつある。臨床においては,これらの病態を改善させる目的で,酸分泌抑制薬が開発,使用されてきた。
1970年代に胃X線撮影法や上部消化管内視鏡検査が開発されたことで,消化性潰瘍の臨床診断が可能となった。しかし,当時は胃酸を制御することは容易ではなく,消化性潰瘍は「難治性疾患」であった。
消化性潰瘍の治療には,Shy 1)のバランス説に示されるように,強力な粘膜傷害因子である胃酸の酸度を低下させることが重要であることは当時より理解されていた。そこで胃酸を中和する目的で,抗コリン薬や酸化マグネシウムなど酸中和剤が使用されていたが,これらの薬剤の作用時間はきわめて短時間であり,潰瘍治癒効果も限定的であった。そのため,当時の消化性潰瘍は入院治療を必要とし,いったん消化管出血を併発すれば致死的な経過をとることも稀ではなかった。当時の難治性消化性潰瘍は外科的治療(手術)が主流であり,胃酸分泌を抑制するため,広範囲胃切除術や迷走神経遮断術が施行されていた。
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