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赤肉摂取と糖尿病の関係

No.4690 (2014年03月15日発行) P.58

近藤慶子 (滋賀医科大学糖尿病・腎臓・神経内科管理栄養士)

森野勝太郎 (滋賀医科大学糖尿病・腎臓・神経内科)

登録日: 2014-03-15

最終更新日: 2017-08-08

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【Q】

牛や豚の肉をたくさん食べる男性は,ほとんど食べない男性に比べて糖尿病の発症リスクが高まるとする報告がある。肉の摂取量と糖尿病の関係について。
牛や豚の肉に含まれる飽和脂肪酸が血糖値を抑えるインスリンの分泌に影響を与えるのではないかという説があるが,可能であればこの詳細について文献を併せて。(青森県 T)

【A】

赤肉の摂取量が多い人ほど糖尿病発症リスクが高いことが疫学研究により明らかとなっている。このメカニズムには,ヘム鉄,飽和脂肪酸,トランス脂肪酸などの関与が考えられている

赤肉の摂取量と糖尿病発症リスク

欧米人を対象とした疫学研究において,非加工・加工の赤肉の摂取量が増加するほど,糖尿病発症リスクが高まることが,男性,女性それぞれのコホートで報告されている1)。ここで言う赤肉(red meat)とは,牛肉・羊肉・豚肉のことである。
一方,日本人対象の検討では,男性では赤肉の摂取量と5年間の糖尿病発症に正の相関があったものの,女性ではこの関係は認めなかった2)
このほかの研究においても,男性では一貫して赤肉摂取と糖尿病発症リスクの関連が報告されているものの,女性では一致した結果が得られていない。また,赤肉のうち,非加工肉よりも加工肉(ベーコンやソーセージなど)の摂取量と糖尿病発症リスクとの関連が強いことも示されている1)
これまでの多くの疫学研究では,観察開始時のみの摂取量で検討されている。食事内容の年齢に伴う変化と糖尿病発症に関しての研究として,4年ごとの食事調査により推定した赤肉摂取量が変化しない群と比較して,0.5サービング/日以上(非加工肉なら約40g/日以上)赤肉摂取量が増加した群では,その後4年間の糖尿病発症リスクが48%上昇することが示された3)

赤肉が糖尿病発症リスクを高めるメカニズム

赤肉摂取と糖尿病発症リスクとの関連には,次に示すようないくつかの因子が考えられている。

①ヘム鉄
鉄は細胞内の様々な反応における触媒として働き,活性酸素種の生成に関与する。酸化ストレスの増加は組織ダメージに寄与することが知られている。

赤肉に多く含有されるヘム鉄は非ヘム鉄よりも腸管からの吸収率が高く,体内貯蔵鉄量と相関しており,高血圧,脂質代謝異常,肥満などの代謝パラメーターとの関連が報告されている4)。食事からの鉄摂取は体内貯蔵鉄の主な供給源である。

②飽和脂肪酸,トランス脂肪酸
飽和脂肪酸は肉類に多く含まれている脂質である。飽和脂肪酸は,インスリン抵抗性を引き起こす5)一方,GPR40を介した脂肪毒性により膵β細胞からのインスリン分泌を抑制するという報告6)もある。飽和脂肪酸の摂取量が多いほど心血管疾患リスクが高いことが報告されているものの,糖尿病発症には関連がない7)と言われている。

さらに加えて,牛や羊などの反芻動物の肉には,トランス脂肪酸が微量ではあるが含有されている。トランス脂肪酸摂取量が多いほど,2型糖尿病発症リスクが高いことが明らかとされている7)

③亜硫酸塩,硝酸塩(加工肉)
ベーコンやソーセージなどの加工肉には保存料として亜硫酸塩や硝酸塩が使用される。これらは,胃内あるいは食品加工中でアミノ酸との相互作用によりニトロソアミンに変換され,ニトロソアミンは膵β細胞の障害を介して糖尿病発症リスクを高めることが動物実験で証明されている8)

④そのほか
赤肉摂取量が将来の体重増加と正相関していることが示されており,肥満を介して糖尿病発症リスクを高める可能性が報告されている9)。また,AGEs(advanced glycation end–products),食塩(主に加工肉),コレステロールが糖尿病発症と関連していることも示唆されている。

【文 献】

1) Pan A, et al:Am J Clin Nutr. 2011;94(4): 1088-96.
2) Kurotani K, et al:Br J Nutr. 2013;110(10): 1910-8.
3) Pan A, et al:JAMA Intern Med. 2013;173(14): 1328-35.
4) Ramakrishnan U, et al:Am J Clin Nutr. 2002; 76(6):1256-60.
5) Parker DR, et al:Am J Clin Nutr. 1993;58(2): 129-36.
6) Koshkin V, et al:J Biol Chem. 2008;283(12): 7936-48.
7) Salmerón J, et al:Am J Clin Nutr. 2001;73(6): 1019-26.
8) Tong M, et al:J Alzheimers Dis. 2009;17(4): 827-44.
9) Vergnaud AC, et al:Am J Clin Nutr. 2010;92 (2):398-407.

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