植込型補助人工心臓(VAD)装着中のリバースリモデリングを狙ったβ遮断薬投与は必須である
VAD装着中に肺高血圧が残存することは稀であるが,必要であればボセンタンを投与することもある
左室補助人工心臓(LVAD)装着後の右心不全は難治性であるが,PDE3阻害薬やPDE5阻害薬の投与で対応する
植込型補助人工心臓(ventricular assist device:VAD)装着後,多くの患者でそれまで破綻した,または破綻しかかっていた血行動態は改善する。現状VADは,心臓移植へのブリッジ使用となっているため,術前に十分内科的治療を試みられたが奏効しなかったという履歴があることが普通である1)。すなわち,術前にはβ遮断薬,ACE阻害薬,ARB,アルドステロン拮抗薬の標準的薬物治療が忍容性のある限り投与されたという既往があり,また,既に血行動態上非代償性に陥ったことも多く,一定量以上の利尿薬,そして大部分の症例で静注の強心薬依存となる。このような薬物治療が周術期を超えて,慢性期のVAD管理中にどの程度必要であるか,必要となる症例はどのようなものかを論じる。
植込型VADの適応がbridge to transplantであり,移植登録済みであることを前提とする限り,前述したように十分内科的治療を施されてstage Dと判断された後に植込型VAD装着となる。したがって,術前の心不全罹患期間も長く,なかんずくβ遮断薬の術前における積算投与量も多い。筆者らは,植込型VAD装着6カ月以内の離脱,または6カ月後の心機能回復が左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)が35%以上になることをエンドポイントに検討したところ,術前のβ遮断薬積算投与量が1.6g(カルベジロール換算量)以下であることが独立した推定因子となることを報告した(図1)2)。
このような治療歴の短い症例は植込型VAD装着例ではそもそも少ないため,植込型VAD術後LVEFが顕著に改善をみることも少ない。しかしそれでも,植込型VAD装着後に離脱可能となった症例も複数経験している3)。術前のβ遮断薬治療が不十分な場合に,顕著に術後の心機能が回復するという事実から,いかに術後のβ遮断薬治療が重要か,そしてより多くtitrationする必要があるか,わかるであろう。筆者らは原則として植込型VADでも体外設置型の頃と同じような薬物治療を術後に施行しており,カルベジロール換算量で1mg/kg体重を目標に忍容性のある限り増量している。その際,血圧低下の問題から多くの症例でβ遮断薬の増量を優先し,ACE阻害薬のエナラプリルで2.5mgなどにとどまることも多い。アルドステロン拮抗薬も,スピロノラクトンで25mg程度の少量投与の例が多い。もちろん,女性化乳房など忍容性に難ありの場合はエプレレノンに変更可能である。
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