No.4765 (2015年08月22日発行) P.27
森山久美 (杏林大学医学部麻酔科学教室学内講師)
萬 知子 (杏林大学医学部麻酔科学教室主任教授)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-02-14
術前は専門科と連携しリスクを評価,周術期の注意点を把握する
術中は適切な鎮痛,循環,輸液管理を,術後も引き続き専門科と連携し,適切な鎮痛,循環,輸液管理,絶え間ないモニタリングをする
高齢化,食事の欧米化による肥満,糖尿病,虚血性心疾患の増加に伴い,周術期の循環器合併症リスクが高くなっている。一方,医療機器の進歩により,腹腔鏡下・泌尿器科・婦人科手術などにおいて低侵襲手術が可能となった。低侵襲手術は,術後の回復が早い,創が小さいなどの利点がある。しかし,手術時間は必ずしも短くはなく,体位や気腹による合併症のリスクも生じる。たとえば,長時間の気腹,皮下気腫,気胸,静脈還流障害による尿量減少,心拍出量低下をきたしたり,術野を確保するために長時間頭低位をとることで,脳圧や眼圧上昇が問題となる。
当院では,手術を受ける患者のほとんどが術前日入院である。以前は,術前日に術前診察を行っていた。しかし,リスク評価不十分で手術が延期になったり,抗凝固薬や抗血小板薬などの術前休薬が守られていないために手術が延期になることがたびたびあった。そこで,リスク評価を外来で行うことを目的として,2010年7月に周術期管理外来を開設した。周術期管理外来では,患者はまず麻酔前問診票,循環器疾患問診票に記入し,麻酔に関するビデオ(麻酔説明,手術を受ける際の注意点など)を閲覧後,麻酔科標榜医の診察を受ける。その際,患者は診察前に全15ページの「麻酔の手引き」を読むことになっている。麻酔科医は,データチェック,既往歴,内服薬を確認し,手術室安全管理マニュアルに沿ってリスク評価を行い,必要があれば追加検査,専門科への診療依頼,かかりつけ医に診療情報提供依頼をする。また,開口の可否,義歯・動揺歯の確認,頸部可動域など頸部の診察,口腔内を診察する。そして,すべての情報がそろったところで麻酔法,術中・術後のリスクについて説明し,麻酔の同意を取得する(図1)。
当院では,2006年に手術室安全管理マニュアルを作成し,術前患者のリスク評価の標準化を図った。異常値やコントロールされていない合併症がある場合は,追加検査や専門科への診療依頼を行い,手術や麻酔の可否,周術期の注意点について専門科の意見を仰いでいる。この中でも,循環器内科への診療依頼は群を抜いて多い。以前,循環器内科では,術前日の時間的余裕がない時期に心機能評価や心リスク判定の診療依頼に加えて,心リスクが低いと思われる心電図異常(右脚ブロック,単発性上室性期外収縮,左軸偏位,非特異的ST-T波異常など)の診療依頼が入り,さらに,不必要な負荷心電図検査,心エコー検査など過剰評価と考えられる検査依頼があることに頭を悩ませていた。手術室安全管理マニュアルの心電図評価や心リスク評価の指針のみでは,担当医が循環器リスクを評価し,適切な診療依頼を行うことが困難な場合が少なくなかったからである。
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