(岐阜県K)
国立がん研究センターがん対策情報センターによる2015年の短期予測では,前立腺癌の罹患数は9万8400人で男性のがんの第1位,死亡数は1万2200人で第6位となっています1)。1985年をモデル人口にした前立腺癌の年齢調整罹患率は,2000年が10万人当たり22.9であったのに対し2011年は66.8と,10年間で罹患率は約3倍に増加しています。一方,年齢調整死亡率は2000年の8.6をピークに2005年まで横ばいでしたが,それ以降はやや減少し,2014年は7.3でした2)。日本泌尿器科学会による癌登録調査でも,前立腺癌の転移癌比率は減少傾向にあり,罹患数の上昇が主に早期癌の増加に伴うものであることがわかります。
こうした早期前立腺癌の大幅な増加において,PSA検査が大きな要因の1つとなっていることは間違いありません。今日,手術や放射線などの根治療法の適応となる早期前立腺癌の多くが,PSA検査を契機として発見されることはほとんどの泌尿器科医が実感しているところです。
一方,PSA検診が対策型検診(住民検診のような集団構成員全員を対象としたもの)として推奨されるか否かは,微妙な問題を孕んでいます。
対策型検診では,スクリーニングの対象疾患を持つ集団における死亡率が低下することが目的とされます。PSA検診に関する大規模な無作為化比較対照試験が欧州(ERSPC)と米国(PLCO)で施行されました。ERSPCは欧州7カ国18万2000人を対象とした無作為化比較対照試験で,対照群に比べ介入群では前立腺癌死亡のリスク比が0.80(95%CI;0.65~0.98)となって,統計学的に前立腺癌死亡率は有意な減少を認めました3)。これに対し,PLCOは米国内10施設による多施設共同の無作為化比較対照試験で,介入群3万8343人,対照群3万8350人を11.5年間追跡したものです。7年目での前立腺癌死亡リスク比は1.13(95%CI;0.75~1.70)と,両群で差を認めませんでした。PLCOでは,対照群でPSA検査を一度でも受診した人の割合は,1年目40%で,6年目52%と非常に高かったことが問題として指摘されています4)。
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