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リウマチ膠原病・アレルギー学[特集:臨床医学の展望2014]

No.4685 (2014年02月08日発行) P.26

簑田清次 (自治医科大学内科学講座アレルギー膠原病学部門教授)

登録日: 2014-02-08

最終更新日: 2017-09-20

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BIOLOGICS AND BEYOND

2003年,我が国でも関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)の治療薬として生物学的製剤(biologics)が導入され,その最初のものとしてインフリキシマブ(infliximab)が使用可能となって以来,現在までにその数は7つにものぼっている。その作用機序もTNF(tumor necrosis factor)抑制,IL-6抑制あるいはT細胞抑制など様々であるため,1つの製剤に有効性がない,あるいは有効性が失われた場合には新たなものを使用できるなど,治療の幅が広がった。

確かに,生物学的製剤の効果はそれ以前の治療薬に比べれば雲泥の差があり,患者の治療満足度を大きく改善したのは確かである。1999年にメトトレキサート(methotrexate;MTX)の使用が認められる前は,有効性を認めることのできる薬剤は非常に少なかった。我々医療提供者は,当然のことながら生物学的製剤に飛びつき(jumping on a cart),また製薬企業もそれを後押しした。

一方で,治療費にも以前の治療法と比べると格段の差が出ている。当初はリスクも懸念されたが,これは我々が重ねた治療経験により大きな問題にはなっていないようである。RAの疾患活動性をより強力に抑制することができる生物学的製剤は,若年患者にこそ必要性がより高いと考えるが,3割負担のために治療効果を経験できない若年患者は多い。

2013年7月に米国からRACAT試験の結果が発表された。これは従来の抗リウマチ薬(DMARD)を併用すれば,その効果は抗TNF製剤であるエタネルセプト(etanercept)に匹敵することを報告したものであり,San Diegoで開催された2013年の米国リウマチ学会(ACR)でもgreat debateの題材として取り上げられた。日本において我々が取り組むべき1つの課題が見えてきたように感じる。

2013年にACRと欧州リウマチ学会(EU LAR)から強皮症の分類基準が発表された。強皮症は我が国では特定疾患に指定されているため厚生労働省(厚労省)の認定基準があり,これが診断基準として用いられている。両者は似ている点も多く,我が国でも受け入れられやすいのではないだろうか。2010年に発表されたRAの基準も今回の強皮症と同様にACR/EULARで作成され,日本を含めたアジアは参加できておらず,我が国での検証を行う必要がある。

リツキシマブ(rituximab)が我が国でも注目を集めている。リンパ腫にしか適応がなかったが,公知申請が受け入れられウェゲナー肉芽腫症(現在ではgranulomatosis with polyangiitis;GPAと呼ばれている)と顕微鏡的多発血管炎に対して2013年1月31日に保険適用となった。2013年のACRでは,このリツキシマブがIgG4関連疾患に有効であることが報告された。今後はこれに関する臨床研究が進歩すると思われるが,IgG4関連疾患は我が国から提唱された疾患であることを考えると残念な面もある。

生物学的製剤から今後は,経口薬である分子標的小分子治療薬へと流れが変わるかもしれない。我が国では最近Janus kinase(JAK)阻害薬であるトファシチニブ(tofacitinib)が承認された。アプレミラスト(apremilast)も近い将来,導入される可能性が高い。

最も注目されるTOPICとその臨床的意義
TOPIC 1/エタネルセプトと同等の有効性を示す経口DMARD 3者併用療法
生物学的製剤時代の幕開け以前は著効を示す抗リウマチ薬(DMAR D)が少なかった。1剤では有効性を認めないために複数併用することも多かった。とりわけ抗TNF製剤はRAの治療において革新的進歩をもたらし,MTXで効果不十分な症例に対してはいち早く使用するように勧められている。しかし,非常に高価であり経済が許さない患者も多い。経口DMARD 3者併用療法が抗TNF製剤と同等の効果を持つというデータは検討する価値がある。

この1年間の主なTOPICS
1 ‌エタネルセプトと同等の有効性を示す経口DMARD 3者併用療法
2 腸内細菌とRA:この不思議な関係
3 IgG4関連疾患の新たな治療薬としてのリツキシマブ
4 アプレミラスト:分子標的小分子治療薬
5 強皮症の新たな分類基準(ACR/EULAR)

TOPIC 1▶エタネルセプトと同等の有効性を示す経口DMARD 3者併用療法

生物学的製剤時代を迎えるまでは有効性が高い抗リウマチ薬(disease modifying antirheumatic drugs;DMARD)はあまりなかった。そこで1剤のDMARDで有効性が乏しかった患者に対して複数のDMARDが投与されることも稀ではなかったが,DMARD併用療法に対する肯定的な評価は少なかった。比較のためのきちんとした臨床試験がなかったことが原因であると思われる。1996年にO’Dellら1)はMTX,スルファサラジン(sulfasalazine)+ヒドロキシクロロキン(hydroxychloroquine;HCQ)の2者併用療法,これら3者併用療法のランダム化二重盲検比較試験(対象102例)を行った。その結果,事前に定められた有効性の達成率はそれぞれ33%,40%,77%で,有意差をもって3者併用療法が有効であることが証明された。我が国では,早期RA患者に対するMTX,ブシラミン(bucillamine),その2者併用療法の結果が2005年にIchikawaらから発表された(対象71例)。その結果,ACR20の達成率はそれぞれ43.5%,45.8%,79.2%で,有意差をもって2者併用療法が有効であった。

これら併用療法は生物学的製剤のインパクトがあまりにも大きかったため,あまり注目されなかった。治療ガイドラインでも,MTXの有効性が不十分な症例には抗TNF製剤が勧められている。治療効果発現スピードも生物学的製剤のほうが速いと筆者らは感じているが,非常に高価で,経済が許さない患者も多い。若年患者ほどより深いレベルの寛解を必要としているが,現在,医療費負担が3割である若年患者には経済的負担が大きい。

そのような中,2013年にRACAT試験の結果が報告された2)。これはRA治療の主体が生物学的製剤となりつつある現在,改めて併用療法の価値に再度光を当てたもので,2013年のACRでの併用療法派(O’Dell)対生物学的製剤派(Vollenhoven)によるgreat debateの題材にもなった。

この試験では,MTX使用にもかかわらずDAS28が4.4以上の患者353例を2群に分け,一方はこれにスルファサラジン+HCQ(3者併用療法群178例)を,他方にはエタネルセプト(MTX+エタネルセプト群175例)を加えて48週後に両者を比較し,前者が後者より劣っていないかどうかを調べた(非劣勢試験)。24週の段階でDAS28が1.2以上の改善を示さなかった症例に関しては,それぞれ逆の治療法に変更した。

平均のDAS28の推移を示す直線は驚くほど,これら2群で重なった。24週目で他の群に変更を余儀なくされた数も,それぞれ44例とまったく同じであった。治療の変更を余儀なくされた2群のその後の治療効果もほとんど重なった。この結果から,MTXの効果が不十分の場合,MTX+スルファサラジン+HCQとMTX+エタネルセプトは同等の効果を示すと判断してもよいようである。この結果は医療経済的に大変朗報ではあるが,我が国ではHCQが使用できない。この3者併用療法はMTX+スルファサラジンあるいはMTX+HCQの2者併用療法より有効であることは別の試験で示されている。

HCQは全身性エリテマトーデスにも使用されており,我が国でも使用可能になることを期待する。また,我が国で使用できるDMARDの併用療法に関しても研究の必要性を感じる。

◉文 献

1)O'Dell JR, et al:N Engl J Med. 1996;334 (20):1287-91.

2)O'Dell JR, et al:N Engl J Med. 2013;369 (4):307-18.

TOPIC 2▶腸内細菌とRA:この不思議な関係

自己免疫疾患モデル動物の中には,無菌状態で飼育すると自己免疫現象が生じないものがあることは知られていた。RAでMTXや生物学的製剤が使用できるようになる前の時代に,病勢コントロールに困った場合は抗菌薬の使用を先達から教えられた。実際,ミノサイクリン(minocycline)が抗リウマチ薬として使用される場合もある。以上から細菌,特に腸内細菌が自己免疫疾患に影響を与えているであろうと想像はされていたし,無菌状態では炎症誘発Th17細胞は存在せず,腸内に細菌をコロナイズして初めてTh17細胞が出現することも示されていた。

Scherら1)がELifeに発表した論文は注目に値する。RAにおける腸内細菌を調べ,それが正常人や他の関節炎(乾癬性関節炎)のそれとは異なること,またRAの病勢レベルによっても異なることを報告している。腸内細菌の種類の検索は,便中の細菌由来である16SリボゾームのRNAを調べることによって可能であるという。

発症早期で無治療のRA44例に治療が行われ,ある程度病勢がコントロールされたRA26例,疾患コントロールとして乾癬性関節炎16例,正常コントロール28例の便の16リボゾームを調べたところ,正常コントロールの大部分,治療しコントロールされたRA,乾癬性関節炎ではBacteroides属が優勢を占めていた。一方,発症早期で無治療のRAと一部の正常コントロールではPrevotella属,特にP. copriが優勢を占めていたという違いがあった。P. copriをマウスに経管で強制的に投与すると,腸内細菌叢がBacteroidesからPrevotellaに変化し,腸炎惹起物質への感受性が高まることも示されている。

RA発症の危険因子の1つとしてHLA DRB1でのshared epitopeがある。これとPrevotellaとの関連を調べたところ,shared epitopeを有していない患者にP. copriが多かったという,一見逆説的なデータも示された。正常人の一部に見られたPrevotellaと無治療早期RAに見られたPrevotellaは質的に異なっているようである。また,腸内細菌はヒトの葉酸代謝にも影響を与えている。Bacteroidesは宿主と腸内に入ってきた葉酸を奪い合うが,Prevotellaではそのようなことが少ない。これはRA治療薬であるMTX(葉酸拮抗薬)の有効性にも関連があるかもしれない。この理論の上では,Prevotellaの多い無治療早期RAのほうがMTXに反応する可能性が高いことになる。

興味深い発見ではあるが,腸内細菌が腸における炎症性疾患ではなく,遠く離れた関節での炎症の発症にどのように関与しているのか,shared epitopeと逆相関をしているのはなぜかなど,いくつもの疑問点は残る。RAは多因子疾患で遺伝因子と環境因子が関わっている。腸内細菌は自然免疫系に働きかけ,自然免疫と獲得免疫の橋渡しを行い,発病の閾値を下げているのかもしれない。shared epitopeを有する患者はこの閾値が高くても発症するが,これを有していない患者は発症にPrevotellaによる閾値の低下を必要とするために,逆相関が認められるのかもしれない。

いずれにしても,細胞数ではヒトの全細胞の10倍ほどの数を有し,重量では1kgにも達する腸内細菌は,ヒトの生存に栄養学的にも重要な働きをしている一方で,ヒトの慢性疾患にも関連していることは想像に難くない。

◉文 献

1)Scher JU, et al:Elife. 2013;2:e01202.

TOPIC 3▶IgG4関連疾患の新たな治療薬としてのリツキシマブ

リツキシマブはリンパ腫に対して我が国でも使用できる生物学的製剤で,B細胞表面分子であるCD20に対して反応性を示し,B細胞を枯渇させる機能がある。この治療薬がウェゲナー肉芽腫症(GPA)と顕微鏡的多発血管炎に対して公知申請が認められ,我が国でも2013年1月に薬価収載された。2010年に発表されたRAVE試験1)の結果,ANCA(antineutrophil cytoplasmic antibody)関連血管炎の寛解導入に優れた効果が認められたことによる。これはシクロホスファミド(cyclophosphamide;CPA)によるこれまでの寛解導入療法と比較して,リツキシマブによる寛解導入が非劣性であることを求める臨床試験であったが,その後の18カ月までの結果が2013年に発表された2)。12カ月と18カ月の段階で寛解を維持・継続できた割合は,リツキシマブ群がそれぞれ48%と39%,対照であるCPA群がそれぞれ39%と33%であり,非劣性が証明されたばかりではなく,数字上では上回っている。また,再発例としてこの試験に参加した患者では,リツキシマブ群の寛解維持率がCPA群より6カ月と12カ月では有意差をもって高かった。しかし,この優位性は18カ月では消失しており,この時点でB細胞が再構成されていたという。リツキシマブの効果としてB細胞が枯渇していることが重要なのであろう。

このリツキシマブが有効性を示す疾患として,IgG4関連疾患が2013年のACRで紹介された。IgG4関連疾患は我が国で発見され,世界へ紹介された疾患であることから注目してみた。

この疾患は臓器に限局した,あるいはその周囲を含めた,IgG4産生形質細胞の浸潤と強い線維化を特徴とする。どの臓器にも発症すると考えられる。また,副腎皮質ステロイドが有効であることも特徴と言える。平均年齢63歳の26症例に対してリツキシマブ1000mgを2週間の間隔で2回,メチルプレドニゾロン(methylprednisolone)100mgとともに投与した結果,92%(24症例)が事前に決定していた一次エンドポイントをクリアし,6カ月間にわたり副腎皮質ステロイドを必要としなかった。再発は5例に認められたが6カ月以内は1例のみであった。IgG4は平均609mgから293mgまで減少し,低補体価も正常化した。

さらに興味深い発見として,IgG4関連疾患では流血中にCD19loCD20-CD38CD27のplasmablastが増加しており,これは血清中のIgG4が低い症例でも認められることから,この疾患の標識となる可能性が発表された。このplasmablastはIgG4を産生しており,oligoclonalでもあった。何らかの抗原刺激を受けている可能性がある。この細胞にはCD20が存在しないので,この細胞に変化していくCD20のB細胞に対してリツキシマブが作用していると考えられる。

◉文 献

1)Stone JH, et al:N Engl J Med. 2010;363 (3):221-32. 

2)Specks U, et al:N Engl J Med.2013; 369 (5):417-27.

TOPIC 4▶アプレミラスト:分子標的小分子治療薬

1984年のArthritis Rheum誌にRAに対してサリドマイド(thalidomide)が有効であることが報告された。1998年にエタネルセプト,翌1999年にインフリキシマブ発売以降は,海外の学会で“rich man’s infliximab, poor man’s thalido­mide”と言われていたのを思い出す。前者はTNF活性をブロックし,後者はTNFの産生を抑制する。

2013年のACRのplenary sessionで,アプレミラストのベーチェット病粘膜病変に対する第Ⅱ相試験の結果がトルコの研究グループから発表された。プラセボ群56例とアプレミラスト群55例で12週間観察した結果,口腔内潰瘍はプラセボ群では治療前平均2.9個が治療後2.1個となり,アプレミラスト群では2.7個が0.5個へ有意に減少した。また,完全に消失した症例はプラセボ群28.6%,アプレミラスト群70.9%であり,これも有意差を認めた。プラセボ群では治療前に陰部潰瘍を6例に認め,12週後は3例に残存していた。一方,アプレミラスト群では治療前10例全例で陰部潰瘍が消失していた。副作用は消化器症状がアプレミラスト群で多かった。ベーチェット病は我が国でも多い疾患であり,この効果には注目したい。

アプレミラストとは一体どのような薬物か。調べてみると,それはサリドマイドの構造を変化させたものであった1)。これは脳と免疫系細胞に多く含まれるphosphodiesterase 4の酵素活性を抑制することで,細胞内cAMPを上昇させる作用を持つ。cAMP/CREB系を刺激して多くの炎症性サイトカインの分泌が抑制されるとのことである。この中には,サリドマイドで言われたようなTNFも含まれる。

すでに多くの疾患で臨床試験が進んでいるようである。乾癬,乾癬性関節炎,強直性脊椎炎,RA,サルコイドーシス,炎症性腸疾患,アトピー性皮膚炎,アルツハイマー病などが挙げられていた。対象疾患が多岐にわたるところは副腎皮質ステロイドのようでもあるが,重篤な副作用は今のところ多くはなさそうである。分子標的小分子治療薬としては2013年,JAK阻害薬であるトファシチニブが承認された。新たなJAK阻害薬であるバリシチニブ(baricitinib)も臨床試験中である。大分子の生物学的製剤からこのような小分子治療薬へと開発は進んでいくであろう。

◉文 献

1)Kumar N, et al:BMC Med. 2013;11:96.

TOPIC 5▶強皮症の新たな分類基準(ACR/EULAR)

我が国の強皮症の診断基準は多くの場合,厚労省の研究班によってまとめられたものが使用されている。以前は項目数が多かったが,2003年にまとめられ単純化した。

我が国のものよりもやや複雑ではあるが,2013年11月にACRとEULARによって強皮症の分類基準が作成・発表された(表1)1)。スコアリングシステムとなっており,各項目のスコアを合計し,9点以上であれば強皮症と分類する。皮膚の肥厚がmetacarpophalangeal(MCP)関節より近位部に認められれば(9点),それをもって強皮症に分類できる。ただし,いくつかの除外項目を設けている。



例えば,体のほかの部位に皮膚肥厚が認められても手指に認めない場合は強皮症に分類しない。我が国の基準に加え,毛細血管拡張,爪郭部の毛細血管の異常,Raynaud現象,肺高血圧/間質性肺炎,自己抗体として抗RNAポリメラーゼⅢ抗体などが含まれる。また,それぞれの項目の定義も記載されている。肺高血圧は右心カテーテル検査による確認を求めており,Raynaud現象は蒼白,チアノーゼ,反応性発赤の3つの色調変化の中で2つ以上を認める必要がある。

我が国の診断基準よりも項目数が多いことから,感度と特異度が向上する可能性はあるが,スコアリングシステムであることから,我が国での検証を必要とする。また,本分類基準ではdiffuse cuta­neousやlimited cutaneousなどの病型分類はなされていないことにも注意を要する。

◉文 献

1)van den Hoogen F, et al:Arthritis Rheum. 2013;65(11):2737-47.

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