【Q】
RS3PE(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema)症候群について詳細を。
また,診断における特徴を。特にリウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica;PMR)との鑑別についても併せて。
(熊本県 M)
【A】
RS3PEは高齢発症で予後の良いリウマトイド因子陰性の左右対称性,手背足背の圧痕性浮腫を伴う滑膜炎で,少量のステロイドによく反応する。PMRの類縁疾患との意見もある
1985年にMcCartyら1)によって初めて報告されたRS3PEは,①予後の良い(remitting),②左右対称性(symmetrical)で,③リウマトイド因子が陰性(seronegative)で,④急性発症する滑膜炎(synovitis)に加え,⑤手背に強い圧痕性浮腫(pitting edema)を伴うことを特徴とする疾患である。浮腫は時に足背にも見られる。
ほかの特徴として,⑥高齢で発症,⑦急な発症,⑧骨びらんはない,⑨痛みのない手首,指の運動制限を伴う,⑩検査上,炎症所見〔CRP, 赤血球沈降速度(erythrocyte sedimentation rate;ESR)高値〕を伴う,などが挙げられる。
加えて,⑪少量のステロイドに非常によく反応し,疾患は寛解する。
表1にMcCartyら1)によるRS3PEの診断基準を示す。年齢,症状とリウマトイド因子陰性でCRP, ESR高値という点を押さえたい。
これまでの報告では,明らかな原因が特定されない特発性に加えて,腫瘍随伴症候群として発症することが示唆され,固形癌や血液系悪性腫瘍を背景に出現するという報告がいくつかなされ2)3),悪性腫瘍の存在を除外する必要がある疾患とされている。
治療はプレドニゾロンによる効果があり,10〜15mg/日の内服より開始する。投薬後数日で著効すれば,診断的治療となり,診断面でも参考になる。
浮腫は日常診療で頻繁に遭遇する身体所見であり,特に両側に認められる場合は全身性の疾患である可能性を示唆する。通常四肢に浮腫を認めた場合には,心不全,肝疾患,腎疾患,内分泌異常や薬剤性を想定する。しかし,いずれも該当しない高齢者の場合で,両側手背足背に圧痕性浮腫(pitting edema)を来す場合,知っておくべき1つの疾患はRS3PEである。この疾患概念を頭に入れておかないと,絶対に診断には至らない。
筆者はこの数年間で数例のRS3PEの患者に遭遇した4)。自験例は75歳以上の高齢者であった。いずれも両側手背足背に圧痕性浮腫があり,症状出現から1カ月以上経過しており,すでに何カ所かの医療機関を受診していたが,診断不明の状態であった。病歴で重要なのは,発症が割と突発的であることで,「前日の晩までは問題なかったが,次の日の朝起きたら手足がむくんでいた」などの経過を聞き出せる場合がある。
診断には他疾患を除外した上で,前述した臨床的特徴と,CRP,ESR高値の炎症反応の亢進と,リウマトイド因子陰性を押さえたい。
PMRは,50歳以上に発症するリウマチ性疾患である。1カ月以上持続する対称性の頸部,肩甲帯,腰帯の疼痛とこわばりを特徴とする。筋痛症状は近位筋で優位であるが炎症性筋疾患とは異なり,筋把握痛や筋力低下は明らかでなく,筋性酵素(CK,AST,LDH)は上昇しない。少量のステロイドで奏効する。また全身倦怠感,食思不振,体重減少,抑うつ症状,発熱などの全身症状が見られる。PMRの約10%は手,手関節,足に圧痕性浮腫を呈することがあり,腱鞘滑膜炎によるものと考えられている。これはRS3PEの症状とも酷似するため,両者が同一疾患または共通の病因に基づく疾患である可能性を示唆する報告もある。PMRに特異的な検査所見はなく,炎症所見としてCRP亢進,ESR上昇を認める。特にESRは著明に増加し,1時間値で100mm近くに及ぶという特徴がある。
PMRに特異的な検査がない以上,除外診断により診断の事前確率を上げる必要がある。PMRとRS3PEとの鑑別については,各々の典型例は,浮腫がなく,近位筋痛が強い場合はPMRと診断し,筋痛が強くなく,両側手背に圧痕性浮腫があればRS3PEと診断して問題にならない。
鑑別に苦慮する例もあるが,現実的にはどちらも少量のステロイドで効果を示し,背景に悪性腫瘍がないかどうかに注意するという臨床的ポイントは共通しており,明確な確定診断をする必要はないのかもしれない。
1) McCarty DJ, et al:JAMA. 1985;254(19):2763-7.
2) Sibilia J, et al:J Rheumatol. 1999;26(1):115-20.
3) Russell EB:J Rheumatol. 2005;32(9):1760-1.
4) Okumura T, et al:Rheumatol Int. 2012;32(6): 1695-9.
5) Dasgupta B, et al:J Rheumatol. 2008;35(2): 270-7.
6) 奥村利勝:リウマチ科.2012;48(3):362-6.