近年,漢方薬の臨床研究は徐々に進んできており,様々な症状・病態に対してのエビデンスが増えてきた
起立性低血圧には五苓散の効果が期待できる
低血圧に随伴することの多い,片頭痛や慢性頭痛に対しては呉茱萸湯が有効であるという報告がある
低血圧+冷え,めまい,頭痛,貧血の改善には,当帰芍薬散が効果的かつ安全であるという結果が報告されている
低血圧は収縮期血圧100mmHg以下,拡張期血圧60mmHg以下と定義され,低血圧症は低血圧に付随して様々な症状を呈している状態を指す。
本稿では,低血圧と関連することの多い症状に対する漢方治療のエビデンスを紹介し,実際の処方例を提示する。また,コラムでは認知症や周術期のせん妄における漢方治療のエビデンスも紹介する。
起立性低血圧は仰臥位・坐位から立位への体位変換後に収縮期血圧が20mmHg以上低下するか,収縮期血圧の絶対値が90mmHg未満に低下,または拡張期血圧の10mmHg以上の低下が認められた状態である。起立性低血圧に対する漢方治療の臨床研究としては,中村ら1)の報告がある。糖尿病患者の起立性低血圧に対する五苓散の効果を無作為化比較試験(randomized controlled trial: RCT)で検討した研究を行い,五苓散投与群では起立後の血圧が収縮期,拡張期ともに有意に上昇し,プラセボ投与群では有意差がなかったことを報告している。これらを参考に,起立性低血圧に対して五苓散を処方する際は以下のようになる。
【処方例】ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用)(17) 7.5g/分3/食前内服など
臨床的に低血圧に随伴しやすい症状として,頭痛が挙げられる。頭痛に対する漢方薬のエビデンスを調べると,いくつか報告がなされている。丸山2)は,「片頭痛予防における呉茱萸湯の有用性に関する研究─塩酸ロメリジンとのオープン・クロスオーバー試験」を行い,頭痛の発症頻度,症状の重さ,トリプタン系薬剤の内服数などにおいて,呉茱萸湯投与群が塩酸ロメリジン投与群に比して優れていたと報告している。
また小田口ら3)は,慢性頭痛に対する呉茱萸湯の効果を二重盲検比較試験により検討し,呉茱萸湯はプラセボに比して慢性頭痛患者の頭痛発症頻度を低下させ,鎮痛薬の内服回数を減少させることを報告している。これらを参考に,片頭痛の予防や慢性頭痛に対して呉茱萸湯を処方する際は以下のようになる。
【処方例】コタロー呉茱萸湯エキス細粒(N31) 7.5g/分3/食前内服など
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