わが国の労働人口の約3人に1人が何らかの疾病を抱えながら働いている1)と言われており,治療と仕事の両立が問題となっている。その背景には,かつては「不治の病」とされていた疾病においても治療手段が確立されたものが増えていること,定年延長などにより高齢労働者が増えていること,が挙げられる。企業側にとって,この両立支援を行うことは,人材の確保・定着,従業員の安心感・生産性の向上につながり,健康経営の観点からも取り組む価値があると考えられる。
厚生労働省は2016年に「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を公表した。このガイドラインの中で,事業者は,主治医・産業医・従業員の意見を勘案し,就業の可否,就業上の措置,治療への配慮を決定し両立支援プランを作成することを勧めている。両立支援のための新しい勤務制度のひとつとして「短時間正社員制度」2)が提案された。この制度は,無期労働契約を締結し,時間あたりの基本給や賞与等が同種のフルタイム正社員と同等のものを言う。短時間正社員制度は北欧を中心とした欧州諸国において既に広がっており3),今後,わが国においても,治療と仕事の両立支援だけでなく,育児や介護といった観点からも広がると予想される。
【文献】
1) 厚生労働省:平成25年度国民生活基礎調査.
2) 厚生労働省:「短時間正社員制度」導入支援マニュアル. 第2版. 2016. [https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/navi/download/pdf/sogo_manual_h27.pdf]
3) Kausto J, et al:Scand J Work Environ Health. 2008;34(4):239-49.
【解説】
能川和浩*1,諏訪園 靖*2 *1千葉大学環境労働衛生学講師 *2同教授