日常臨床で遭遇する機会の多い慢性便秘は,排便回数の異常,便性状の変化,排便困難感・残便感,腹部膨満感などさまざまな症状を呈し,慢性便秘症患者では活動性や労働生産性が大きく障害される。
慢性便秘の治療には,主に各種下剤,整腸剤,消化管運動調節剤,高分子重合体,浣腸などが使用されている。しかし,下剤の多用は腹痛や下痢状の排便を引き起こし,患者満足度が低い場合もある。また慢性便秘患者では,腸内細菌の不均衡により過剰な腸管ガスが発生することで腹部膨満感を引き起こし,患者のQOLが悪化する一因となっている。
大建中湯は腸管血流増加作用,消化管運動促進作用,消化管ホルモンに対する作用,門脈血流増加作用などが報告され,臨床においては外科手術後の消化管運動不全や,腹部膨満症状を呈する患者に広く使用されている。
排便回数減少だけでなく,排便に関係する症状が日常的にある場合は,当然ながら器質的疾患を除外した上で,治療を考慮する必要がある。
便秘患者において腹部膨満症状はQOLを悪化させる一因であるが,一般的な下剤の使用は下痢や腸管運動の過剰賦活による腹痛など,QOL低下をきたす別の要因となる可能性がある1)。慢性便秘の治療は単に便を出すことだけが目標ではなく,排便によるさまざまな症状を緩和し,QOLの向上が伴わなければならず,安易に刺激性下剤の選択をするべきではない。
大建中湯は便回数や便性状を変えることなく腹部膨満症状を改善させる効果が認められ,慢性便秘患者のQOL改善に有用である。