日本人の食道癌の多くは扁平上皮癌であるが,欧米ではバレット食道腺癌が増加傾向にある
日本人に多い食道扁平上皮癌の強いリスクファクターはALDH2欠損である
食道癌の早期診断には特殊光による画像強調内視鏡検査および拡大内視鏡検査が有用である
各種画像検査により,腫瘍の壁深達度(T),リンパ節転移(N),遠隔転移(M)の診断を組み合わせて進行度診断を行う
地域がん登録全国推計に基づく国立がん研究センターがん対策情報センターの2011年全国集計によれば,わが国における食道癌の罹患率は男性で人口10万人当たり31.7人,女性で5.2人で,男女ともに増加傾向にあり,男性では7番目に多いがんである。死亡率は2013年統計で,男性で人口10万人当たり15.8人,女性で2.9人であり,男性に多い難治性の悪性腫瘍であることが特徴である1)。
世界においても食道癌は増加傾向にあると考えられており,米国では年間約1万8000人が,全世界では年間約45万人が罹患し,約40万人が死亡していると推定されている2)。
食道癌の組織型は国や種族により大きく異なることが知られている。わが国の食道癌の約90%は扁平上皮癌であるが3)4),米国では約60%が腺癌で,その割合は増加傾向にあると報告されている5)。しかしながら全世界的にみると,東アジアを中心に依然として扁平上皮癌が多いことが知られており,2012年には39万8000人が扁平上皮癌,52万人が腺癌に罹患している,と推定されている6)。
日本人において食道扁平上皮癌の高リスク群として知られているのは50歳代以上の男性,飲酒群および喫煙群である7)。飲酒と食道癌の関係で特に注目されているのがアルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドを分解するALDH2(aldehyde dehydrogenase 2)である。日本人の10%がALDH2ホモ欠損型,30~40%がヘテロ欠損型で,少量飲酒でも顔が赤くなるフラッシャーである。横山7)は,ALDH2欠損者の飲酒は,食道癌・頭頸部癌の強力なリスクファクターである,と報告している。
また,ADH1B(alcohol dehydrogenase 1B)のホモ低活性型は日本人には少ないが,アルコール依存症になりやすく,ALDH2ヘテロ欠損型との組み合わせで食道癌のリスクが相乗的に高まる,とされる7)。このほか,熱い飲食物,低栄養,果物や緑黄色野菜の不足によるビタミン欠乏も扁平上皮癌のリスクファクターとされている8)。
欧米で増加している食道腺癌については,逆流性食道炎によって生じるバレット食道が前癌病変と位置づけられており,米国での内視鏡的フォローアップおよび内視鏡的治療の対象となっている。このほか,喫煙と肥満も腺癌のリスクファクターとして知られている6)。わが国でもバレット食道腺癌の報告は増えてはいるものの,まだ有意な罹患率の増加は認められていない3)4)。
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