(東京都 S)
上部内視鏡検査で現在汎用されている前方直視鏡の場合について述べます。
①食道─胃接合部
通常は収縮しているため,通り一遍の観察では病変を見逃しやすく,特に逆流性食道炎の微細な変化やショート・セグメント・バレット食道(short segment Barrett esophagus:SSBE)の有無などの判定にあたっては,詳細な観察が必要です。被検者にお腹を膨らますように深く息を吸い込んでもらって,同部を十分拡張して観察します。
②噴門部小弯
噴門部を反転操作で観察する場合,スコープ自体に邪魔されて小弯側が死角となりがちです。その場合,スコープの軸回転や左右アングルを使いながらスコープを大弯側に持ち上げて小弯側を観察します。腰の弱い経鼻内視鏡ではこの操作が困難なことがあります。噴門部は小弯側だけではなく,前壁側,後壁側,大弯側の観察も意識して行います。
③胃体部─穹窿部大弯
胃体部大弯は襞が重なり,その中に病変が隠れていることがあります。さらに体上部から穹窿部の大弯では胃液が貯留し,その多くは不透明なため観察の妨げとなります。少し時間をかけてでも胃液を十分吸引し,送気で襞が解離するまで胃を十分膨らませて観察するようにします。特に胃体中部から上部にかけての大弯は送気しても膨らみの悪いことが往々にしてあり,瀑状胃ではこの傾向がみられます。この場合,被検者にお腹をゆっくりへこませてもらうと襞の解離が促されることがあります。
④胃体部後壁
見下ろし観察ではこの部は接線方向となり,正面視が困難なため病変を見逃しやすい場所です。見下ろし観察に加えて,スコープをJ反転しスコープ軸を少し後壁側に振って,見上げ観察も十分に行います。また,見下ろし観察ではスコープが近接するためハレーションが起きやすく,観察困難になります。ハレーションをきたす場合は,自動調光をピーク測光に切り替えるとハレーションが抑えられ観察しやすくなります。ただし,ピーク測光は遠距離となる部位の観察が暗くなります。
⑤胃角から前庭部の小弯(いわゆる角裏)および胃角部後壁
胃角を十分正面視した上でスコープを少し挿入し,アップアングルをかけて角裏を見上げるように観察します。そのままスコープ先端を右に振りスコープを前後させながら胃角部後壁を観察します。胃角部が近接しすぎて良好な視野が確保できない場合は,送気を追加しスコープの軸回転を使いながら胃角をうまく正面視できる位置にスコープを持っていきます。
⑥1つの病変にとらわれすぎると別の病変を見逃す
別の部位に病変が潜んでいる可能性を常に意識して検査を行って下さい。
現在使用されている便潜血反応検査は免疫法であり,ヒトヘモグロビン(Hb)に対する特異抗体と便中Hbとの抗原抗体反応を利用したもので,主として大腸癌のスクリーニングを目的としています。上部消化管出血から生じたHbは胃液,膵液,腸液に含まれる酸やアルカリ,各種消化酵素,腸内細菌などにより変性・分解され,Hbの多くはその抗原性を失うため検出されにくくなります1)。
したがって,胃の出血性病変などに対して便潜血反応検査が陽性となることは少ないでしょう。ただし,上部消化管出血が大量で,急速に消化管を通過して便中に排泄される場合は,陽性となることもありえます。
【文献】
1) 平田一郎:臨床検査ガイド2015年改訂版. 三橋知明, 他, 編. 文光堂, 2015, p1059-62.
【回答者】
平田一郎 大阪中央病院特別顧問