医療分野における多職種連携は,主に地域包括ケア分野において活発に行われてきたが,近年,産業保健分野においても注目されている。これは,産業保健活動の多様化・複雑化により,産業医だけで課題に対応するのは限界があり,様々な職種の視点を尊重し活用することで,質の高い産業保健活動が展開できるからである。
働く人の健康に影響する要因は多様である。物理的・化学的・生物学的な作業環境,仕事の量・質,作業の進め方,上司・部下・同僚との人間関係,不規則勤務・派遣などの労働条件など,枚挙にいとまがない。たとえば,2015年12月からストレスチェック制度の実施が義務化されたが,メンタルヘルス不調者への対応は,患者としての病状,労働者としての勤務遂行能力,個人の生活状況,事業所側の状況など,多視点から問題解決を進める必要があり,復職に際しては保健師・心理職・職場の上司・人事部門などと連携しなければ解決できない。また,一次予防としてのストレスチェック結果の集団分析による快適職場形成・職場環境改善においては,物理的・化学的な作業環境の見直しから業務量・質の調整,人間関係といったソフト面まで対応する必要があり,産業医だけでなく,多職種連携で問題解決にあたることで,より良い職場環境が形成できる。
今後も,産業保健に求められる課題やニーズは刻々と変化していくことが予想される。各職種がそれぞれの専門性を尊重し活用することで,様々な課題を解決できると考えている。
【解説】
能川和浩*1,諏訪園 靖*2 *1千葉大学環境労働衛生学講師 *2同教授