頭蓋咽頭腫は,組織学的にエナメル上皮腫型と乳頭型に分類できるが,臨床的にもエナメル上皮腫型は小児と成人の2峰性の好発年齢があるのに対して,乳頭型は主に成人に発生するという違いもある。分子遺伝学的にもエナメル上皮腫型ではβ-catenin遺伝子の変異が報告され,Wnt経路のシグナル伝達系がエナメル上皮腫型において,腫瘍化に重要な役割を果たすドライバー遺伝子変異であると考えられている。
これまで,乳頭型のドライバー遺伝子変異は不明であったが,最近になってBRAFがん遺伝子のV600E変異が乳頭型に特異的に報告され,この遺伝子変化が乳頭型のドライバー遺伝子変異であることが明らかになった1)。この2つに遺伝子変化は相互排他的であり,分子マーカーとして診断にも有用であることが示された。治療的な側面からも興味深い報告がなされている。
近年,BRAFがん遺伝子のV600E変異が認められる悪性黒色腫などに関しては,BRAF阻害薬を用いた分子標的薬が著効することが報告されているが,乳頭型頭蓋咽頭腫に対しても,BRAF阻害薬の著効例が最近報告された2)。今後,乳頭型頭蓋咽頭腫に対して分子標的治療が有効な治療法になる可能性があり,さらなる研究成果が望まれる。
【文献】
1) Brastianos PK, et al:Nat Genet. 2014;46(2); 161-5.
2) Brastianos PK, et al:J Natl Cancer Inst. 2015; 108(2).
【解説】
吉本幸司*1,飯原弘二*2 *1九州大学脳神経外科准教授 *2同教授