(東京都 F)
冠攣縮性狭心症発作は,特に夜中から早朝にかけての安静時に起こりやすいことが知られており,その発作の67%は自覚症状のない無症候性発作であることが報告されています1)。労作や運動によって誘発されることもありますが,その頻度をみると早朝のほうが起きやすく,日中にはかなりの運動を行っても誘発されにくいことが報告されています。これは,夜間から早朝にかけての安静時には副交感神経が亢進し,その末端からアセチルコリンが分泌されることが関係しています。
この作用を利用したものが冠攣縮性狭心症の診断に用いる冠攣縮薬物誘発試験です。心臓カテーテル検査時にアセチルコリンを冠動脈内に直接投与して行います。エルゴメトリン(エルゴノビン)を使用することもありますが,感度・特異度,安全性よりアセチルコリンを使用することが一般的です。
冠攣縮性狭心症患者では,アセチルコリンの投与により冠動脈は著明に収縮し冠攣縮が誘発されるのに対して,正常者ではむしろ冠動脈は拡張します。これは,冠動脈の血管内皮細胞機能が正常であれば,アセチルコリンはムスカリン受容体の刺激により内皮細胞から平滑筋を強力に弛緩する内皮由来弛緩因子,つまり一酸化窒素(NO)を分泌し冠動脈を拡張させるからです2)3)。
一方,動脈硬化のために血管内皮細胞機能が異常をきたしていれば,NOの分泌が阻害され,冠動脈が収縮することによって,冠攣縮が誘発されます。
動脈硬化が存在すれば冠攣縮性狭心症でない患者においても冠動脈の軽度の収縮が観察されます。血管内超音波4)や光干渉断層法5)で冠動脈内を観察すると,冠攣縮が誘発される箇所のほとんどで動脈硬化による血管内膜肥厚がみられます。また,NOは血管収縮物質であるエンドセリン等の生成を抑制する作用を持ち,NOの分泌が阻害されるとエンドセリンの生成が増加することも冠攣縮の誘発に関与しています。一方,NOは血管平滑筋増殖抑制作用や血小板凝集抑制作用もあり,NO分泌の阻害がより動脈硬化を進展させることが知られています。
【文献】
1) Yasue H, et al:Intern Med. 1997;36(11):760-5.
2) Furchgott RF, et al:Nature. 1980;288(5789): 373-6.
3) Ignarro LJ, et al:Proc Natl Acad Sci USA. 1987; 84(24):9265-9.
4) Tsujita K, et al:Int J Cardiol. 2013;168(3): 2411-5.
5) Shin ES, et al:JACC Cardiovasc Imaging. 2015;8(9):1059-67.
【回答者】
鈴木 洋 昭和大学藤が丘病院循環器内科教授