(滋賀県 Y)
RAにおける抗リウマチ薬(disease modifying antirheumatic drugs:DMARDs)の減量および中止に関しては,特に確立した基準や指針はありません。
米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)の「RA治療ガイドライン2015年版」では,「13. 寛解に入ったらDMARDsの減量を行う」とあります。エビデンスは乏しく推奨度も低いのですが,再燃のリスクはあるものの,副作用や過度な治療の可能性を考慮して最小限の治療を考慮するという考え方が示されています1)。
しかし,中止については「14. 寛解に入ってもすべてのRA治療を中止することはしない(do not discontinue all RA therapies)」と明記されています1)。この項目については,エビデンスは乏しいものの,強く推奨するとされており,その理由として,経験的にすべての治療を中止したときには再燃をきたし,治療の再開が必要となるリスクが高いためとされています。
欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)のレコメンデーション(2016)でも同様に「12. 持続的な寛解に入ったら従来型抗リウマチ薬(csDMARDs)の減量を考えてもよい」との項目がありますが,ここでもレコメンデーション作成に関わった専門医の多くはDMARDsを中止すべきではないと考えている,と記載されています2)。さらに,わが国における「関節リウマチ診療ガイドライン2014」においても,治療方針として「長期間寛解が維持できれば,患者と医師の意思共有の上でcsDMARDsの投与量を慎重に減量することを考慮してよい」との推奨がなされています3)。
以上のように主なガイドラインでは,減量はよいが中止はしないほうがよいとの見解です。
一方,RAにおける治療中止に関する研究報告はわずかですが,早期RA患者を対象とした欧州からの最近の報告では,DMARDsを中止後も1年以上再燃しなかった患者の特徴として,抗CCP抗体陰性,リウマトイド因子陰性,罹病期間が短い,などが示されています4)。個人的な経験からも,自己抗体が陰性のRAは治療を中止できる可能性が高いと思っています。
本症例は抗CCP抗体陽性ですので,治療中止により再燃をきたす可能性は低くないと思われます。関節症状,診察上の関節腫脹(さらに可能であれば関節エコー),炎症反応がすべて陰性または正常の状態が長期間(1年程度以上)続いているようであれば,まずはMTXを少しずつ減量(4mg/週程度まで)して経過をみてはどうかと思います。
さらに,寛解状態が続く場合でも中止は勧められませんが,個人的な見解としては,上記のような知見やリスクを説明して,それでも一度中止してみたいと患者が強く希望すれば,試してみてもよいのではないかと思います。その場合も定期的なフォローアップを行い,RAの再燃が生じれば速やかにMTXの再開を行うべきと考えます。
【文献】
1) Singh JA, et al:Arthritis Rheumatol. 2016;68 (1):1-26.
2) Smolen JS, et al:Ann Rheum Dis. 2017;76(6): 960-77.
3) 日本リウマチ学会, 編:関節リウマチ診療ガイドライン2014. メディカルレビュー社, 2014.
4) Ajeganova S, et al:Ann Rheum Dis. 2016;75 (5):867-73.
【回答者】
多田芳史 佐賀大学医学部附属病院膠原病・リウマチ内科准教授