(徳島県 K)
現在,使用可能な脂質異常症の治療薬は,スタチン,小腸コレステロールトランスポーター阻害薬,胆汁酸結合性陰イオン交換樹脂,フィブラート系薬剤,eicosapentaenoic acid(EPA)製剤,ニコチン酸製剤,プロブコールなど多くの選択肢があります。また,最近はより強力にLDL-Cを低下させるproprotein convertase subtilisin/kexin type 9(PCSK9)阻害薬が開発され,スタチンへの追加でLDL-Cは胎児レベルまで低下可能になっています。
スタチンは,高LDL-C血症に対する薬物治療の中心ですが,動脈硬化性疾患発症予防薬の役割も担っており,薬剤の選択となれば第一選択薬となります。高LDL-C血症治療における達成目標値は一次予防,二次予防により異なります(表1・2)。
糖尿病,高血圧,慢性腎臓病,喫煙,非心原性脳梗塞,末梢動脈硬化性疾患などの動脈硬化危険因子の評価を行います。リスクに応じた管理目標値が設定されています。生活習慣の是正が中心であることは言うまでもありませんが,必要に応じて薬物治療を考慮します。
一次予防の効果は,多くの大規模臨床試験で立証されています。
わが国で行われたMEGA研究においては,虚血性心疾患や脳梗塞既往のない脂質異常症の患者7832人をプラバスタチン群と食事療法群に無作為に割り付けました。5.3年の追跡期間において,プラバスタチン群は食事療法群と比較して,LDL-C値を18%低下させ,主要エンドポイントである心血管イベントの発症率も33%低下させることを明らかにしています。
世界の大規模臨床試験のメタ解析において,一次予防患者のみを対象に約5年追跡すると,スタチン群で,LDL-C 1mmol/Lの低下により主要心血管イベント(冠動脈死,非致死性心筋梗塞,冠血行再建,脳血管障害)発症がプラセボ群と比較し1000人当たり25人低下しました。
リスクに応じてLDL-Cの達成目標値は異なりますが,これらの結果からスタチンの脂質異常症治療の第一選択薬の地位は不動となっています。
LDL-C 100mg/dLを達成目標値とする脂質低下療法が必要となります。今回の日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2017年版」においては,二次予防のハイリスクとして家族性高コレステロール血症,急性冠症候群,糖尿病(かつ慢性腎臓病,非心原性脳梗塞,末梢動脈疾患,喫煙,メタボリックシンドローム,主要危険因子の重複のうち1つ)を位置づけ,LDL-C 70mg/dLを達成目標値としたことが大きな特徴です。
二次予防患者においては,心血管イベントの抑制や冠動脈病変の進展抑制など,最も多くのエビデンスを持つスタチンが至適内科薬物治療の中心であることは周知の事実です。
冠動脈疾患既往のある患者は,心血管イベント発症リスクが高まることから,スタチンの二次予防効果がより重要性を増します。スタチンは二次予防においても豊富なエビデンスを構築してきました。その結果から世界ではLDL-C 70mg/dLが達成目標値になっています。さらに最近,スタチンにエゼチミブやPCSK9阻害薬を追加し,LDL-Cをさらに低下させることによって心血管イベントを抑制するエビデンスも出てきています。
日本人を対象とした積極的脂質低下療法において,イベント発症低下を示す大規模臨床試験のエビデンスはなく,現在進行中のREAL-CAD試験の結果が待たれます。
【回答者】
宮内克己 順天堂大学順天堂東京江東高齢者医療センター 循環器内科教授