新規経口抗凝固薬が登場し,どの薬剤のどの量を選択するかという悩みが出てきた。各薬剤の禁忌,慎重投与,薬物相互作用,減量の基準を熟知して,目の前にいる非弁膜症性心房細動患者にどの薬剤のどの用量(標準用量か低用量か)が一番適切であるかを判断する。添付文書をもとに薬剤比較表を提示し,インフォームドコンセントと医療連携を含めて私見を述べた。
ワルファリンは強力な経口抗凝固薬で,PT-INRを指標とする用量調節可能な薬剤として50年以上にわたり使用されてきた。しかし,納豆,クロレラ,青汁,モロヘイヤなどの摂取禁止,ほかの薬剤との相互作用,定期的な採血の必要性,薬効発現に時間がかかること,ワルファリンジレンマ(抗凝固として働くプロテインC・Sの抑制),ワルファリンレジスタンス(遺伝子多型によっては高用量のワルファリンが必要),頭蓋内出血をきたしやすいこと,頭蓋内出血が重症化しやすいこと,など多くの問題点があった。
これらの問題を解決するため,2011年にダビガトランエテキシラート(プラザキサⓇ)1)~3),12年にリバーロキサバン(イグザレルトⓇ)4)~6),13年にアピキサバン(エリキュースⓇ)7)~9)などの新規経口抗凝固薬(novel oral anticoagulant:NOAC)が発売された。この3種類のNOACとワルファリンの4剤を適切に使いわける必要がある。
筆者ら脳卒中専門医は,ワルファリンが有する問題点の多くを克服し使い勝手が良いこと,特に頭蓋内出血の発症が少なく発症しても軽症例が多いことからNOACを第一選択薬としている。
NOACの適応は“非弁膜症性心房細動(non-valvular atrial fibrillation:NVAF)患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症抑制”である。NVAFとは「人工弁置換(機械弁,生体弁とも)とリウマチ性僧帽弁膜症(おもに狭窄症)を有さない心房細動」と定義されている10)。したがって,ほかの疾患あるいはNOACの禁忌ではワルファリンを選択しなければならない。NOACの禁忌を表1,慎重投与を表2に示す1)4)7)。
Cockcroft&Gaultのクレアチニンクリアランス(Ccr)推算式で算出されたクリアランス・クレアチニン(CLcr)の数値で,ダビガトランエテキシラートでは30mL/分未満,リバーロキサバンとアピキサバンでは15mL/分未満は禁忌である。ワルファリンは重篤な肝・腎障害のある患者では禁忌となっているが11),実際には高度の腎機能障害や透析患者ではワルファリンが使われている。
凝固障害を伴う肝疾患,中等度以上の肝障害(Child-Pugh分類BまたはCに相当)ではリバーロキサバンは禁忌である。アピキサバンは血液凝固異常および臨床的に重要な出血リスクを有する肝疾患では禁忌となっている。
ダビガトランエテキシラートはイトラコナゾール(経口薬)投与中は禁忌である。リバーロキサバンはイトラコナゾール,ボリコナゾール,ケトコナゾールなどのアゾール系抗真菌薬(フルコナゾールを除く)投与中,リトナビル,アタザナビル,インジナビルなどのHIVプロテアーゼ阻害薬投与中は禁忌である。アピキサバンには併用禁忌薬はない。
ダビガトランエテキシラートは6カ月以内の出血性脳卒中では禁忌となっているが,リバーロキサバンやアピキサバンは禁忌となっていない。また,ダビガトランエテキシラートは脊椎・硬膜外カテーテル留置もしくは抜去後1時間以内,リバーロキサバンは急性細菌性心内膜炎の患者,妊婦または妊娠している可能性のある女性でも禁忌となっている。
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