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多剤耐性緑膿菌感染症/薬剤耐性緑膿菌感染症[私の治療]

No.5036 (2020年10月31日発行) P.44

堀野哲也 (東京慈恵会医科大学附属病院感染症科准教授)

登録日: 2020-10-30

最終更新日: 2020-10-28

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  • わが国では感染症法により,多剤耐性緑膿菌/薬剤耐性緑膿菌(multidrug resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)は広域βラクタム系薬,アミノグリコシド系薬,フルオロキノロン系薬の3系統の薬剤に対して耐性を示す緑膿菌と定義されている。血流感染症や肺炎,尿路感染症など,様々な感染症の原因となるが, 多剤耐性のため,薬剤感受性試験の結果が判明する前に初期治療として投与された抗菌薬が無効であることが多く,適切な抗菌薬投与の開始が遅れることにより重症化するリスクが高い。

    ▶診断のポイント

    培養検査によってMDRPが分離された際に最も重要なことは,感染症の原因菌か保菌かを判定することである。すなわち,血液培養からの分離であれば真の菌血症,便培養からの分離であれば保菌の可能性が高いと考えられるが,喀痰や尿,創部などから分離された際は,治療対象とすべきかどうかを臨床所見や経過,検体の採取方法,投与薬剤などから判定しなければならない。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    最初にMDRPの薬剤感受性試験の結果から,ピペラシリンやセフタジジムなどのカルバペネム系薬以外の抗緑膿菌活性を有するβラクタム系薬の感受性が保たれているかどうかを確認する必要がある。複雑な臨床経過で繰り返し抗緑膿菌活性を有する抗菌薬が投与され,様々な耐性機序の組み合わせによって多剤耐性を獲得した場合や,メタロβラクタマーゼのようなカルバペネム分解酵素によってカルバペネム系薬に耐性を獲得した場合では,すべてのβラクタム系薬に耐性を獲得していることが多い。それに対して,βラクタム系薬の耐性機序がカルバペネム系薬の透過経路であるOprDポーリンの欠失あるいは減少のみによる場合は,カルバペネム系薬以外のβラクタム系薬の効果が期待でき,これらの投与が第一選択薬として推奨される。

    本稿では,カルバペネム系薬を含むすべてのβラクタム系薬,アミノグリコシド系薬,フルオロキノロン系薬に耐性を獲得したMDRPに対する治療薬について記載する。このMDRPに対する治療の選択としては,①注射用コリスチンメタンスルホン酸(以下,コリスチン)の投与と,②コリスチンを含まない多剤併用療法の2つの選択肢が挙げられる。コリスチンはポリペプチド系薬に分類され,細菌の外膜に結合して,膜に存在するカルシウム・マグネシウムを置換することによって抗菌活性を発揮する薬剤であり1),他の抗菌薬と作用機序が異なることから,MDRPで感受性が保たれていることが期待される。ただし,既にコリスチン耐性のMDRPも報告されており,コリスチンに対する薬剤感受性は確認する必要がある。

    MDRP感染症に対してコリスチンを投与する際には,コリスチンに感性があっても,コリスチン以外の感性を有する抗菌薬,あるいは感性ではなくてもブレイクポイントに最も近いMICを示すカルバペネム系薬などの抗菌薬の併用投与が推奨される2)。この理由として,①コリスチンの推奨投与量では,多くの症例で有効血中濃度に到達しないこと,②副作用である腎障害の出現が懸念されるため,単純に投与量を増量できないこと,③肺炎モデルを用いた報告で,コリスチンの経静脈投与では効果が乏しかったこと,④コリスチンの単剤治療による治療失敗や,コリスチンに対する耐性菌の出現が報告されていること,が挙げられる2)。また,コリスチンの血中濃度上昇に時間がかかることから,初回は負荷投与すること,さらに,経静脈投与されたコリスチンが十分に肺へ移行することが期待できないことから,MDRPによる院内肺炎や人工呼吸器関連肺炎では,コリスチンの吸入療法を併用することが推奨される2)。ただし,これら他の抗菌薬との併用投与や負荷投与,コリスチンの経静脈投与と吸入療法の併用は,十分なエビデンスに基づいた治療ではなく,負荷投与や吸入療法は保険適用も認められていないことに注意しなければならない。また,コリスチンの副作用として腎障害や神経障害などが報告されており,投与時には注意が必要である。

    コリスチンを含まない併用療法は,単剤では無効な抗菌薬を組み合わせることで,相乗効果によって治療効果を期待する投与方法である。わが国では,チェッカーボード法によって相乗効果を示す薬剤の組み合わせを評価する,BCプレート‘栄研’®を用いて選択した併用療法が有効であったことが報告されている。BCプレート‘栄研’®にはコリスチンも対象薬として含まれており,コリスチンとの併用薬選択やコリスチン耐性のMD RPを治療する際の参考になることも期待される。また,併用薬のひとつとしてカルバペネム系薬を投与する際には,高用量を長時間かけて投与する方法も提案されている。

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