症例対照研究により二分脊椎に関連する因子を解析し,4つのリスク因子をわが国で初めて同定した。症例群の葉酸サプリメント内服率と葉酸認知率は,対照群に比べて有意に低率であった。過去30年間,二分脊椎の発生頻度は減少していない。穀類への葉酸添加政策が実施されると,二分脊椎の発生率は減少し,医療経済学的にも大きな便益が期待できる,と考える。
葉酸は1940年代にホウレン草から発見されたビタミンB群の1つである。体内では合成されない水溶性ビタミンであり,食品から摂取する。緑黄色野菜,果物,魚介類,レバーなどに含まれる。食品に含まれる葉酸の生体利用効率は50%と低率であるが,薬品として合成された葉酸の生体利用効率は85%へ上昇する。葉酸はDNAの合成,巨赤芽球性貧血の治療,組織の新生,神経管閉鎖障害(二分脊椎,無脳症,脳瘤などの総称)の予防,胎盤早期剥離の防止などの機能を担っている。
葉酸が神経管閉鎖障害の予防に有効であることは,1991年に英国医学研究会議(Medical Research Council:MRC)から報告された無作為化比較試験で既成事実となった1)。過去に神経管閉鎖障害児を懐妊した妊婦1031名を対象とした研究で,妊娠4週前から葉酸4mgを投与された群は,非投与群に比べて再発症例の72%が防止できた。92年に米国は妊娠を計画する女性は,葉酸サプリメント400µg/日(=0.4mg)を内服するよう,緊急に通達した2)。99年には中国で介入試験が行われ,葉酸400µg/日内服群の初発防止効果は北部で79%,南部で41%であった3)。
2000年に厚生省はこれらの報告をふまえて,妊娠を計画する女性は妊娠前1カ月から妊娠3カ月まで葉酸サプリメント400µg/日を内服するよう勧告した4)。
図1に過去30年間の二分脊椎と無脳症の発生頻度を示す5)。二分脊椎の頻度は2000年以降も分娩1万件当たり5~6件で推移し,年間500~600名の患児が出生している。一方,無脳症は1990年を境にして急激に減少した。これは出生前診断が広く実施され,妊娠中絶が行われた結果である。
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