【妊娠前からの低用量アスピリン内服を考慮】
抗リン脂質抗体症候群(APS)合併妊娠は流死産,早産,妊娠高血圧症候群(HDP)をはじめ,血栓や血小板減少といった産科合併症をきたしうるハイリスク妊娠である。
国内でのAPS女性69人,81妊娠を対象とした多施設共同研究により,血栓歴,妊娠歴,抗体プロファイル,治療内容と妊娠帰結,産科異常の関連を解析した1)。治療には,低用量アスピリン(LDA)とヘパリン(H)の併用療法(LDA+H)が標準的に用いられ,その生児獲得率は93%であった。流死産と関係する独立した因子としてLDA+H治療下での流産既往(OR:8.7),LDA+H治療(0.13)が確認され,LDA+H治療の有効性が支持された。
LDA+H治療を実施した症例においては,aPL複数陽性(OR:9.6)妊娠前からのLDA内服(0.14)は34週未満の早産の独立した予後因子であった。また,HDPと低補体(OR:12.1),血小板減少と続発性APS(4.0),aPL複数陽性(4.9),LFD(light for date)児と続発性APS(6.7)の関連が確認された。なお,続発性APS 36例中35例はSLE合併であった。
妊娠を希望するAPS症例では妊娠前からLDAを内服させ,妊娠後早期にHを導入することで妊娠予後の改善が期待できる。さらにaPL複数陽性や低補体血症,SLE合併といった妊娠予後不良因子が存在する場合は,より濃厚な経過観察と治療を行うことが必要である。LDA+H抵抗性の症例に対する追加治療としてエビデンスのあるものはなく,免疫グロブリン等の有効性が検討されている。
【文献】
1) Deguchi M, et al:J Reprod Immunol. 2017;122: 21-7.
【解説】
出口雅士 神戸大学地域医療ネットワーク学分野特命教授