(兵庫県 K)
【臍帯には痛みの発生に必要な構造がない】
結論から述べると,出生時,臍帯を切断しても新生児が痛みを感じることはありません。
痛みは,一般的に,体性痛,内臓痛,神経障害性疼痛の3つに分類されます。体性痛は皮膚や骨・関節・筋肉・結合組織といった体性組織への切る,刺すなどの侵害刺激が原因で発生する痛み,内臓痛は食道・胃・小腸・大腸などの管腔臓器の炎症や閉塞,肝臓や腎臓・膵臓などの固形臓器の炎症や腫瘍による圧迫,臓器皮膜の急激な伸展が原因で発生する痛み,神経障害性疼痛は末梢・中枢神経の直接的損傷に伴って発生する痛みで,侵害受容器が刺激されていない状況で発生します。いずれも痛みの発生には末梢神経を経由する中枢神経への伝達が必要です。
一方,臍帯は胎児と胎盤を結ぶ血管の通路で,表面を羊膜で包まれたワルトン膠様質の中に2本の臍動脈と1本の臍静脈が通っていますが,末梢神経は通っていません。解剖学的な側面から検討すると,臍帯には痛みの発生に必要な構造がないため,臍帯を切断しても新生児は痛みを感じることはないと考えられます。
【回答者】
小澤未緒 広島大学大学院医歯薬保健学研究科准教授