ファンクショナルMRIの世界的権威で、複雑系科学の専門家としても日米で活躍、日本医事新報の連載「フィロソフィア・メディカ」などを通じて現場の臨床医にエールを送り続け、今年7月1日に68歳で逝去した脳神経学者の中田力氏(新潟大名誉教授、カリフォルニア大名誉教授)を追悼する「中田力先生を偲ぶ会」が9月16日、都内のホテルで開かれた。会場には中田氏と親交のあった臨床医、自然科学系・人文科学系の研究者、メディア関係者、友人らが集まり、故人の足跡を振り返った。
「中田ファミリー」と呼ばれる門下生を代表して追悼の言葉を述べた脳神経外科医の宝金清博氏(北大病院長)は、カリフォルニア大研究室で中田氏と議論した時のエピソードを披露。
「中田先生を前に反論するというのはとんでもないこと。百倍くらい返され、こてんぱんにやられる。私はその経験をしたことがあり、研究室で1時間以上、いかに宝金が間違っているかという話をされて、ものすごく怖い思いをした。おかげで科学に対する厳しさを本当に勉強させてもらった」と述べ、怒りの表情をあまり見せることのない中田氏に「怒られた」貴重な経験を語った。
宝金氏は、中田氏が最後に遺した作品として、Neuroscientist 2018年5月号掲載の論文「Fluid Dynamics Inside the Brain Barrier」も紹介。「難解ではあるが、おそらく20~30年後に大変な評価を受ける論文になるのではないか。ちょうどアインシュタインの論文が何十年か後に分かる人が出てきたのと同じことが、中田先生の仕事に関しても起こるのではないか」との見方を示し、「中田先生が完成したと思ってきた仕事を翻訳し、世に広めるのが我々の仕事」と、論文の価値を証明する作業に意欲を示した。