【喘鳴が強いのにSpO2が正常の場合は,過換気とともにVCDを疑う】
喘息発作と間違いやすい病態として,心不全,過換気症候群,COPD増悪などとともにVCDがある。本疾患は意外と知られていないが,WHOのガイドラインでは40歳以上の喘息との鑑別が必要な疾患の筆頭に挙げられている。病態は一言で言えば,「気管支の閉塞ではなく,声帯が狭くなることにより喘鳴が生じる状態」である。ストレスや緊張などによる声帯の一時的な開口不全による気流制限が連続性呼吸雑音をもたらすが,気道は確保されているため低換気は起こらず,低酸素血症はみられない。①喘鳴・呼吸困難が夜間より日中に多い,②心因性因子の存在,③喘鳴が呼気より吸気で強い,④スパイログラムが正常あるいは上気道閉塞パターン,などを特徴とし,確定診断には喘鳴・呼吸困難時に声帯の閉鎖・内転を観察する必要があるが,タイミングよく喉頭ファイバーを実施できることは少ない。
VCDは決してめずらしい病態ではなく,気管支喘息と診断された患者の3~5%,呼吸困難でICUを受診する患者の2~20%,治療抵抗性喘息の30%に存在するとされるが,本病態は気管支喘息への合併が多いため,呼吸困難を訴える患者自身も医師も,それが喘息発作ではなくVCDの状態であることに気づかない。診断のポイントは,呼吸雑音が圧倒的に胸部より頸部で強く聴取されることである。SpO2の値が正常であるにもかかわらず,喘鳴の存在のみで喘息発作が持続していると見誤り,漫然と全身ステロイド投与を続けてしまう状況だけは避けたいものである。
【解説】
中村陽一 横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンターセンター長