【がん浸潤転移のメカニズム解明と治療の展望】
予後不良となる肺癌患者のがん細胞の特性は,浸潤転移に関する性質である。これらに深く関わるのが,上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition:EMT)であり,最も重要な克服すべきがんの特質のひとつである。
EMTとは,1985年にElizabeth Hayらが報告した現象であり,神経堤の形成時や創傷治癒時などに働く正常上皮性細胞のひとつの機能である。基底膜上に整然と並んだ上皮性細胞の細胞-細胞間接着が緩んで,運動能を有する間葉系細胞様になって,さらに細胞外基質分解酵素などを放出することにより,間質内への浸潤が可能となる。これらの現象ががん細胞の浸潤転移経路の第一歩と考えられている。
筆者らの研究でも,EMTの上皮性のマーカーであるE-cadherin消失や間葉系マーカーであるvimentin発現の組み合わせによるEMT活性化のphaseに応じて,予後が悪化していくことが判明した。それだけでなく,原発巣における局所脈管浸潤やリンパ節転移の頻度も増加した1)。EMTは,肺癌の転移に直接的な影響を与えていると思われる。
またEMTは,転移能以外にも薬剤耐性や免疫回避などのがんの様々な特徴に関わるとも言われており,EMTを標的とした治療法の開発には,相乗的な予後の改善が期待される。
【文献】
1) Menju T, et al:Cancer Treat Res Commun. 2017; 12:62-8.
【解説】
毛受暁史 京都大学呼吸器外科講師