卵巣囊腫は,一般的には良性の卵巣腫瘍の中で内容が液体状のものを示し,腫瘍性と非腫瘍性(機能性)に分類される。形態としては隔壁を有さない単房性の,いわゆるsimple cystから隔壁を有する多房性のものがあり,囊腫内容も漿液性から血性,脂肪成分まで様々である。
腫瘍の大きさと経腟超音波断層法の所見が重要である。経過観察を行う場合には,悪性化の兆候と茎捻転・破裂などの合併症に注意する。
生涯で卵巣腫瘍を発症する女性は全体の約15~20%と言われているが,腫瘍径が10cm未満の単房性あるいは隔壁を有する囊腫では,39~69%が自然消退すると報告されている1)。機能性囊胞は,基本的には単房性で月経開始前の時期によく認められる囊胞であるが,月経後に再度観察すると消失することが多いため,単房性囊胞の評価は月経直後~排卵前の時期に行うことが重要である。機能性以外の腫瘍性の卵巣囊腫においては,腫瘍径が5cm未満で経時的にサイズに変化がなく,後述の悪性を疑う所見がなければ直ちに手術療法を行うことなく,経過観察も可能である。
卵巣囊腫の治療方針の決定には卵巣癌との鑑別が非常に重要であるが,その鑑別法として経腟超音波断層法は最も簡便かつ有用な検査である。単房性囊胞はサイズが小さければそのほとんどは良性であり,隔壁を有する囊腫でも隔壁の不整肥厚や壁在結節などの所見がなければ良性である可能性が高い。Van Nagellらは,卵巣囊腫の体積と内部構造により囊胞を点数化し,卵巣癌との鑑別に有用であると報告している1)。卵巣癌は閉経後に好発し,形態的に単房性囊胞でも閉経後のほうが閉経前よりも有意に卵巣癌の頻度が高いという報告もあり1),閉経後の囊胞は慎重に評価・管理をする必要がある。超音波検査で悪性が疑われた場合には,MRIやCT検査を積極的に行うことが必要である。中でもMRIは,卵巣癌の診断に非常に有用である。
卵巣癌との鑑別に有用なもうひとつの方法は血清腫瘍マーカーの測定である。CA125はその代表であり,閉経後卵巣囊腫の評価方法として腫瘍の大きさとともに重要である。しかしながら,CA125は月経時や子宮内膜症など良性疾患でも上昇することがあるため,感度・特異度はともに低い。したがって,腫瘍マーカー単独での良悪性の評価は行うべきではなく,超音波所見を加味し,また経時的なサイズや囊胞内部の構造の変化の有無も考慮して評価すべきである。内膜症性囊胞(チョコレート囊腫)に関しては,特に日本では年齢が40歳以上,腫瘍径9cm以上の場合,がん化のリスクが高いことが報告されており,がん化の予防的観点からも積極的に手術療法を行うことが望ましい。そのほか,多房性,両側性,腹水貯留などの所見も悪性を示唆する所見として注意を要する2)。
多くの卵巣囊腫は無症状であるが,卵巣囊腫の合併症として茎捻転と破裂が挙げられ,いずれも急性腹痛の症状を呈する。茎捻転は卵巣囊腫の中でも成熟囊胞性奇形腫に多いとされており3),腫瘍径が5~6cmを超えるとそのリスクは高くなると考えられている。茎捻転を起こすと血行障害を生じて卵巣自体が壊死に陥り,患側の正常卵巣部分の温存が困難な症例があることから,特に生殖可能年齢の奇形腫については症状がなくても5~6cm以上の場合には手術を考慮する。また,一方で50歳以降の奇形腫はがん化のリスクが高くなるため,手術を行うことが望ましい。卵巣囊腫の破裂は内膜症性囊胞でみられることがあるが,奇形腫では稀である。
茎捻転,破裂ともに緊急手術の対象となりうるが,機能温存のためにも突然に発症した女性の急性腹症では,茎捻転や破裂の可能性を念頭に造影CTやカラードップラー法を用いた超音波診断を可及的速やかに行い,診断することが重要である。
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