先頃,日本高血圧学会から「高血圧治療ガイドライン(JSH2019)」が発表された。2014年版に比して降圧目標値が引き下げられ,より厳格な降圧をめざしているのが大きな特徴である。特に65~74歳では130/80mmHg,75歳以上では140/90mmHgを目標に,さらに忍容性がよければ75歳以上でも130/80mmHgをめざすとしている。これは2015年に米国から発表されたSPRINT試験1)の結果を根拠にしたガイドラインであり,半世紀に及ぶ高血圧治療の歴史を見ても画期的な改革である。
長い間,高齢者でも厳格な降圧をめざすべきであると著者が主張し,異端視された頃を思うと隔世の感がある。学会や研究会のディベートでは,高齢者では緩徐な降圧という立場に立つ専門家には事欠かなかったが,“厳格な降圧”という立場での演者は私以外に見当たらないということで,つい数年前までは必ずと言ってよいほど学会長から指名されたものである。しかし,昨今ではどの専門家もがあたかも昔から主張していたかのように“高齢者でも厳格に”と雑誌や講演会で述べている。
本原稿では高齢者高血圧のあり方の変遷を論争の面からふりかえり,総括してみたい。